第11話 「二階堂優輝」と書いて「男の娘?」と読む③

 遠めから見でも似ていると思っていたが、近くで見るとさらにすごかった。

 何がすごいかと言われると一言では表しきれないし、具体的にここだということもできない。

 それでも、頭の上から指の先に至るまでアニメの中で見ていたアキそのものであった。

 

 ファンである僕が見てもそうなのだから、普通の人が見比べたら確実に違いなんて分からないのだろう。


 そういう人だからなのか自分のオーラというか感情を覆い隠すのがうまい。それこそ、人の顔色をうかがうことで今までの学校生活を乗り切ってきた僕じゃないと分からないくらいだ。

 最もここ最近は翼君の相手をする時でしか使った記憶がないが......


「お客様、何かお探しでしょうか?」


 うん!! やっぱり、怒っているな......というか、声も結構似てないか!!


 正直、なぜ怒っているのかわからない、というわけではない。けども、決してよこしまな思いから見ていたわけではない。

 それこそ、芸術品を愛でるような思いで見ていただけだ。


 しかし、そんなことを言えば、自分へのヘイトがさらに高まりそうであるから、言わない方が良いだろう。


「……いや~、見ているだけなので大丈夫ですよ。」

「そうですか、それは失礼いたしました。」


 彼女は軽く会釈をし、この場を離れるのかと思いきや僕の横から動く気配がない。


 ……よし。この状況どうするか?


 本来であれば、この場をすぐにでも離れるのだが、横にいる。そして、僕が邪魔なのかと思ってちょっとだけずれようとしたら、目からすごい圧を感じる。


「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


 だからと言って何か僕に話があるわけでもなさそうである。正直、周りに人がいる中でこの空間に居られるほどのメンタルが備わっていない。


 ……考えてもしょうがない!! 覚悟決めてこの場から早く逃げよう。


「それでは......」

「…何か言うことはないんですか?」


 はい、終わった。今、声に怒気がこもっていたもん。とりあえず、早くなんか言わないと

「あの~。え~と。あ!! そのコスプレすごくクオリティー高いですよね。」

「……このキャラ分かるんですか?」


 あれ? なんか話に食いついたな。このままごまかせるんじゃないか!!


「え~と、多分この前やっていたアニメのアキですよね。すごく似ているなと思って、さっきも見てしまいましたし。」

「そうですか......」


 あれ? 急にうつむいてしまったが、大丈夫か? やっぱり、理由があっても見ていたのはきもかったか。


「……そう言ってもらえると嬉しいです!! この服は夏の間に着る衣装案の一つなんですよね! 夏場でもチラシ配りで外に行ったりすることがあるんですけど、店と外でじゃ温度差があって大変なんですよね。だから、このメイド服に合わせたアームウォーマーを着用することを考えたんです! でも、どうせならこの衣装に合わせたキャラを演じてみたいと思いまして、そこでこの前やっていたアニメのメイドキャラに合わせて白いウィッグを付けて、特にここの刺繍なんて............」


 急に顔を上げたと思ったら、目を輝かせて早口でしゃべりだした。それこそ、漫画で描くキラキラのマークが目に写っているような錯覚を起こすほどに目を輝かせていた。


 服にこだわりがあるのか、クスプレ自体が好きなのかはわからない。だが、自分のこととなって話し方や声も若干変わった気がする。というよりも、これが本来の彼女の姿なのかもしれない。


「……特にこの裾の部分なんて、って、すいません!! 私、衣装の話に

なると止まらなくて、お客様に対していらぬことまで話過ぎました!」

「いえ、大丈夫ですよ。話も面白かったですし。」

「そうでしたか、...それはありがとうございます。」


 少し恥ずかしそうに会釈をし、またうつむいてしまった。

 だが、その姿と声にきゅん......じゃなくて、何か違和感を覚えた。

 どこか聞き覚えのある声と見覚えのある仕草だった気がする。


 何って言うか、女の子っぽい気がする。女子に対して女の子っぽいと言うのも何か変だけど......あれ、あの目!?


 ここに来れたうれしさで本来の目的を完全に忘れてしまっていた。

 

 そう、ここには優を追いかけて来たのだ。


 優なら誰よりも女の子らしい仕草や声なんて簡単だろう。それに、この人が優だと思ってみると、彼女......ではなく彼はもう優にしか見えない。

 というか、もしこの人が優なら、優ってこんなキャラだったんだな......悪くない。


 だが、分かっているぞ、優。誰にだってばれたくない事の一つや二つはあるだろう。

 ならば友として、今日のことは墓場まで持っていこう。だが、いつかこの趣味を語り合うことができる時が来たらいいな。


 心に固い決意と淡い希望を抱きながら、早くこの場を離れようと誓った。


「今日はもう用は済みましたし、帰りますね。それでは、また明日学校で。」


 別れの挨拶をすますと、体の向きを変え、入り口の方向に歩をすすめた......よし!! これで完璧に秘密を守り通せそうだ。


「おいお前、ちょっと待て。」


 あれ!? 今、後ろからさっきまでのかわいらしい声とは違い、数段低くなったような声が聞こえてきた気がする。

 

 ……あ、致命的な間違いをした気がするが、ここはいったん落ち着こう。とりあえず、今後ろに振り向いたらやばい気がするから、このまま聞こえなかったふりして帰ろう。


「今、明日学校でとか行ったか。」

「いや、そんなこと言ってないですよ!!」

「い~や、言ったね。ってか、俺の声に驚いてないじゃねぇか。」

「お、驚いたけど。それも優の声がっぱりきれいだなと,,,,,,,,,」


 あっ......


 「……お客様少し時間よろしいでしょうか。裏まで来てください」


 元の丁寧な口調には戻ったが、その分低くなった声と笑っていない目による威圧感が増し、怖さが倍増させていた。


 我ながら本当に馬鹿だなと思うが、これから起こるであろうことに関してはそのくらいに馬鹿な方が耐えられるだろう。


 僕はひきつった笑みを浮かべながら、背中に鬼神を宿らせた優の後を歩いて行った。

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