第9話 「二階堂優輝」と書いて「男の娘?」と読む①
「うおっ、痛っ。」
「早くしないと見失っちゃうよ。」
現在、僕、佐藤連と音無杏里は人込みの中をかき分け、ある男の追跡をしている。
なぜ、こんなことになっているのかと言うと、それは1時間ほど前にさかのぼる。
◇◇◇
「今日もいなさそうだね~。」
「そうですね......」
あの日から2週間ほどが経ったある日のこと。僕はゲームセンターで音無さんとゲームをしながら、ここにいる本来の目的である人探しの件を手伝っていた。
しかしながら、音無さんみたいな人がこんなにも面倒くさいことをしてまでお礼がしたいというのには正直、とても驚いた。
彼女については短い期間ではあるが、話をしていて分かったこともある。特に、性格については無気力とまではいかないものの、気だるさの部分がよく目立っていた。
だからこそ、なおさら人を見た目だけで判断することは違うのだろうと思ってしまう。
「あ~あ、また負けちゃったか~。ってか、あんたまじで強くね。」
「そう何ですかね....」
週に2,3日、放課後の2~3時間の間、音無さんの人探しが行われていたが、ほとんどの時間が格闘ゲームの対戦に使われていた 。
その間、音無さんが話題を振っていてくれるのだが、人とあまり話すことが得意ではない僕にとって自分から話を振るなんてことはおろか、話を続けることすら難しいものであった。
だから、あまりの静けさに気まずくなる時も多々あった。……業務連絡ならまだうまくできるんだけどな。
「15戦で1勝か~。段々と勝てなくなっている気がするんだよな。あんたって格ゲー得意なの?」
「中学の頃に少しだけ、格ゲーをやり込む機会がありまして、多分それのおかげだと思います」
「へぇ~。これでも格ゲー少し自信あったんだけどな~」
「大丈夫ですよ。すぐにでも......」
そんな何気ない会話を続けていると、視界の端にうちの学校の制服を着た男子生徒が写った。
「音無さん、もしかしたらあの人なんじゃないですか?」
「そうか。ね、じゃ~ちょっと話しかけてみる?」
「何で、そこ疑問形なんですか! 聞きに行きましょうよ!!」
彼女にはなんやかんやで退屈に過ごしていた放課後を充実させてもらっている。その恩があるから、彼女の願いをかなえる手伝いくらいはしっかりやろうと少しだけ前のめりになってしまった。
あ~でも、翼みたいなやつだと嫌だな......今からでも辞めたくなってきた。
「あれ~? あいつって優じゃね?」
「ゆう?」
「うん。クラスで私とよく話している奴なんだけど。知らない?」
クラス内での音無さんというと色んなグループをその日の気分で行ったり、来たりしていた印象がある。
しかし、その中でもとあるグループにいる場面をよく見ることがあった。
「それって篠崎君たちのところですよね。」
「うん。そうそう。」
やっぱり、そうか。
普段、篠崎君のところには篠崎君含めて4人がいてその中の一人が音無さんだったのは覚えている。
多分だが、そこの残りの2人のどっちかのことについて言っているのだろう。
けれども、他人と関わりを持っていない僕にとって他人の名前を知る機会などはほとんどなく、ゆうという名前については見当もつかなかった。
「今のところはわかんないですけど、近くで顔を見たらわかるかもしれません。」
「じゃ~行ってみるか。」
彼女はそうつぶやくと、そそくさと歩き出して彼のもとへと行き。僕は急いでその後についていった。
「優、何やってんの?」
「わ~!! って、杏奈ちゃんか。急に話しかけられたからびっくりしちゃったよ。」
「あ~ごめんごめん。こんなところに珍しいのがいるな~と思って話しかけちゃった。」
「も~本当にびっくりしちゃったんだから、次から気を付けてよ。」
あぁ、そうだったのか。
近くに来て、やっと気づいた。
彼女が話している優と呼ばれるその人物について僕はよく知っていることに。
その人は水色がかった白髪のショートヘアーと水色の眼が特徴の中性的な顔立ちで小動物な見た目に合ったかわいらしい声。着ている男物の制服は体の小ささもあり、ぶかぶかで常に萌え袖状態になっている。
そして、ここが一番大事であるが、『この人は女ではなく男だ』もう一度言おう、『この人は女ではなく男だ』。名前は
その見た目と明るい性格から、学校内でも特に有名な人物であったため、前々から名前を憶えていたのだ。
「あれ、後ろにいるのってクラスの子だよね。僕は二階堂優輝、よろしくね!」
「よろしく......佐藤、連です」
う~ん、ちょっと棒読みだったかな。学校だと男子から話しかけられることなんてほとんどないから緊張するな。
……まぁ、女子の場合はほとんどが話す以前に僕の存在を知らないだろうから関係ないんだけど。
「緊張してるの連君? クラスメイトなんだからそんなこと気にしないでいいのに。あと、僕のことはこれから優って呼んでね!」
「あ、あっ......うん。」
いや~、 初めて話したけどうわさ通りすごく優しいな。初めてこんなにも普通の会話をクラスの男子とできたし、これが漢の中の女と呼ばれる所以なのかもしれないな。
……しかも、いつのまにか名前読みになっているんだけど!? 距離の縮め方すごいし、これってほとんど友達なんじゃないか!?
「よし、自己紹介も終わったし、ちょっと聞きたいことがあんだけどいい?」
「いいけど...、どうしたの?」
「2週間前の月曜日って、どこで何してた?」
「2週間前の月曜日?......う~ん、何やっていたか覚えてないな。」
「じゃぁさ、その日ってここには来てた?」
「……ううん、ここには来てないかな。」
「......そうなんだ。わかったわ。変なこと聞いてごめんね。」
「別に気にしないで。じゃ、僕はこれから用事あるから、また学校でね。」
「うん、じゃあね~。」
彼女...じゃなくて彼は急いだ用事だったのか小走りで去っていった。
「よし、とりあえず尾行するよ。」
「え、なんで!?」
「いいから早く。」
僕は手を引っ張られ、急いで優の後を追いかけることとなった。
そして、現在へと戻る。
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