第7話 「音無杏奈」と書いて「始まり」と読む
なんやかんやで高校のクラスメイトと初めて遊んでから一週間後、あの日の頼みごとの件で彼女から連絡は特になく、いつも通りの日常を過ごし続けていた。
あの時の頼み事が実は僕の聞き間違いだったとも考えたが、難聴であるという自覚 もないから、約束はきちんとしたと思う。というか、連絡先とか交換したわけではないから、本当に罰ゲームで遊ばれているかもしれない!!
そんなことを考えながら、1日を過ごし、現在は放課後でいつも通りの帰り道を一人歩いていた。
「この前のことはもう気にしないで行こう。」
1日中考えた結論として気にしないで行くことにした。少し心の中では楽しみにしていたところもあったが、無いならば無いでお金の心配もせずに済むのだから問題は無い。
あの時のことは高校生になって初めてクラスメイトとまともに話せて、遊べたといういい思い出だと思うことにしよう。
「ちょっと、帰んの早すぎない。」
気にしないでいいかと思った矢先に後ろから聞こえた彼女の声にびっくりしながらも声の方に振り返った。
「こ、こんにちわ。音無さん。」
「うん。話したのはあの日以来だから......一週間ぶりかな。」
「あ~、そうですね。」
「クラスだと何か話しかけてほしそうじゃなかったし。放課後すぐに話しかけようとしたら、いつの間にかにいなくなっていたから、今日は急いで来たんだよね~」
「それはすいませんでした!! 普段はバイトとか買い物があるのであまり残らないんですよね。」
実際は話す相手がいなくて教室にいても意味がないからという理由だが、見栄を張るために当たり前のように嘘をついた。
しかし、普段の学校生活を見ていれば僕に友達がいないことくらい一目瞭然であるからそんな言い訳じみたことをしないでも良かったと言った後になって気づいた。
「……あ~そうなの。それは悪かったね。じゃ、今日も予定がある感じ?」
「あ~。大丈夫ですよ。今日はバイトもないですし。」
「そう、ならいいか。」
彼女はそう言うと、そのままゲームセンターのある駅方面に歩き始めた。
~~~
「あ~あ、また負けた。」
ゲームセンターにつくと前回と同じように格闘ゲームを行い、僕の5戦5勝であった。
「はぁ、何で勝てないんだ。あんた強すぎない?」
「いや、段々とは強くなっている気がしますよ。前よりもボタンの連打とかタイミングの取り方がうまい気がしましたし。」
「……そうね。」
一瞬だけ彼女の声色に違和感があった気がじたが、それよりも......
「本来の目的の人探しの方はいいんですか?」
「あっ、そうか、それで来たんだったわ。」
「忘れないでくださいよ......それで探している人って誰なんですか?」
「……それが分かんないんだよね。」
えっ!? 分からないのにどうやって探そうと思っていたんだ!!
「あの~、分からない人を探すのは分ですが無理ですよ」
「いや、完全に分かんないわけではないんだけど。知っているのって、ここの学校の男子生徒だっていうことぐらいだし。」
相手はこの学校の生徒なのか。
それならうちの学校は生徒総数が約1200人だから、最悪その半分の約600人の男子生徒全員を調べればいいのか......うん、無理だ。
実際に一人ずつ探そうとなれば、高いコミュニケーションスキルと人望に加え。多くの時間も必要となる。
そんなことが僕みたいなのにそできるわけもなく、たとえ僕ではなかったとしても相当難しいのではないだろうか。
「すいませんが、それだけで探すのは相当大変ですよ。その~、他にはもう情報はないですかね? というか、なんでその人を探しているんですか?」
「う~ん。私、前にさ。ここのゲームセンターでうちの学校の男子に助けられることがあってさ。その時のお礼をしたいんだよね。」
「でも、顔とか見てなかったし、声も小さくて聞こえなかったから、何もわからなくなくて探そうとしても全然全然見つからないんだよね。」
「……強いて言うなら、その時にゲームセンターででかい縫いぐるみを持っていたぐらいかな。」
へぇ~、大きなぬいぐるみか......うん!? それって、僕も似たようなの取った気がするな?
いや待て、落ち着いて考えろ!! まず、うちの学校の男子生徒というのは僕でも当てはまるな。他には、小さい声と大きなぬいぐるみをっていたということか...............あ~、僕かもしれない。
「こんなことじゃ、あんま分かんないよね。」」
いや、もうさっきの情報だけで大体予測はついているんだよな。
でも、これはどうすればいいんだ!?
多分だけど、彼女が探している人物っていうのは僕な気がする。
しかし、ここで『僕があなたの探していたその人です。』と言っても、違ったらめちゃくちゃ気まずいし、僕自身あまり目立ちたくないので自分から言うのはやはり躊躇われる。
それに、目が良くないから助けたのが彼女だという自信もない。
したがって、探している相手は僕ではない......気がする、ということにしておこう。
「まぁ~、1か月ぐらいで見つからなかったら、諦めるよ。」
「そうなんですね。」
1か月か......結構あるな。
実際には毎日やるわけではないから、そんなにはないのだろう。けども、その探し人がここに戻ってくるかもわからないし、可能性だけで言えば、僕がその人だってこともあるかもしれない。
まぁ、人から頼られること自体は悪くない、というか、正直うれしいまである。
それに、一度引き受けたものを断るのも嫌だし、結局は彼女からの依頼を断ったらどうなるかわからいからこれはこれでいいのかもしれない。
「わかりました、僕も気にするようにはしますね。」
「お~あんがとう......っていうか今更だけど、あんた名前なんていうんだっけ? まだ聞いてなかったわ」
「あ~そうですよね。言ってなかったですよね......改めまして、佐藤連って言います。」
「ふ~ん、そんな名前だったんだ。あっ、そういえば、私の名前も言ってなかったけ。あたしは音無杏奈。よろしく。」
「よろしくお願いします。」
これからの1か月のことを考えると、大変そうなことしかなさそうだが、ここまで来たら頑張るしかないか。
ため息交じりのその思いとは裏腹に窓から見える景色はひときわ明るく、雲一つない青空であった。
そして、僕、佐藤連はこの日をきっかけに才栄学園と深く関わるようになるのだが、今の僕はまだそのことを知る由がない。
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