第6話 「音無杏奈」と書いて「頼み事」と読む
「あんた、私の人探し手伝ってくんない?」
人探しと言うのはさっき言っていたやつだろうか?
想像していたよりも斜め上な発言に頭の中で現状を理解しようとも、いまだに?マークが埋め尽くされている。
「あんたにはさっき言ったと思うけど今、人を探しているんだよね、」
「はい、それは先ほど聞きましたけど.....」
「それでさ、今日ゲームやっていて思ったんだけど......」
ズキン
うっ......これは.だめだ。直感だが何かものすごく聞いてはいけない気がする。
ここはやはり早々に退散するべきか!!
そうと決まったらすぐに行動しないと......
「あの...「今度からも人探しする時の暇つぶし相手になってもらおうかと思ってさ。」
やっぱり頼み事か!!
『僕』にはこう見えてちょっとした特技がある。それがこの第六感の様なものだ。
『僕』のこれまでの経験上、この予感のような、直感のようなものがくる時には大抵、誰かから頼み事をされる時であった。
それが父親か、母親か、兄弟か、はたまた見ず知らずの誰かに頼まれる時でも起こっていた。最近で言うなら、翼君に掃除当番を押し付......お願いされた時にも起こった。
これは僕という存在が形成されたときにはもう身に着けていた能力であるから、ある意味では超能力と言えるようなものである。
だが、これを超能力と言うならば与える相手を間違えてしまっているだろう。
もっとこう、人望があるような人や、それこそヒーローみたいな人間に与えるべきだったはずだ。僕みたいな人間に与えてところで人から嫌なことを任されることしかないしな。
そして、僕には炎を操るとか、空を飛ぶとか、時を操るとか、瞬間移動できるみたいな能力を与えるべきだった。……でも、うん、そうだな。
例えば、僕が炎を操る能力を得たとしても。最初は楽しくて1日中でもやるかもしれないけど、結局火事になったらやばいなとか考えて、最終的にはキャンプで火つけるのに便利だなとか思うくらいになっていそうだな。やっぱり、僕に与えたところで自分の中二病心を潤すだけで周りに対してメリットが何もない。それこそ人望ある人に渡した方が良いな。
「それでさ、どう?」
彼女の一言で、妄想の中にクラウチングスタートを切ろうとしたところで、現実へと連れ戻された。
「どうと言われましても急には......それよりも理由を聞かせてもらってもいいでしょうか。」
「理由って……普通に待っているだけだと暇じゃね?」
「そうではなくて.....何で僕なんですか?」
彼女からの頼みごとにすごく混乱していたが、特にその相手としてなぜ僕が選ばれたのかわからなかった。
「音無さんなら仲良い友達くらいいると思いますし、そちらに頼まないんですか?」
「まぁ、それもありなんだけどさ......」
ごくりっ
息を飲む音さえも聞こえるほどの静寂に包まれる。こんなに緊張したのはいつ振りかと思うほどに心臓の鼓動が早くなる。
友達が多くいるような彼女がなぜ僕を誘ったのか?
彼女と話したこともなければ、僕に人が話したくなるような要素があるわけでもない。
友達と呼べるような存在があまりいなかった僕の人生だったから、答えなど見つかるはずがない。正直、罰ゲームだからと言われた方が納得はできる、うれしくはないが。
この一瞬とも呼べる静寂に、思考を巡らせていたが、その答えは彼女の一言によって導かれた。
「せめて、私が勝ち越せるまでやりたいからさ。」
ただの負けず嫌いじゃないか!!
想像以上に単純な理由であり、驚きはしたが、だからこそ彼女の言葉に裏がないように感じられた。
けれども、初対面に近い人とすぐに遊べるようなタイプでもなければ、金銭面的に余裕があるわけもない。
しかたないが、今回は断らせてもらおう。
「すいません。今回はちょっと「何で?」」
返し、早!!
「えーと、金銭的に余裕がなくて......」
「じゃ、向こうの10円のゲームでいいよ。」
「それでもやっぱりお金が......」
「なら、私が少しくらいなら払うけど。」
いや、急に詰めすぎでしょ!!
全然諦める気がない彼女にある種の恐怖に似た感情を感じ取った。
そこまでしてゲームに勝ちたいのかとは思うが、彼女の方が折れる様子はない。
あの時、気づかないふりをして帰っていれば、運命は変わっていたのかもしれないが、、過去をやり直すことなどどんな人間であっても不可能なのだ。
だからこそ僕は.......
「……分かりました。良いですよ。」
その言葉以外を選ぶことはできなかった。
「じゃ、今度からよろしく。」
「…わ、分かりました。」
「ついでに人探しの件も頼むわ。」
「…………えっ?」
「うん?」
「えっ......」
◇◇◇
僕の回答に満足した様子でさらに注文を増やされてしまった。その後、少しだけゲームのコツについて教えて、今日は解散となった。
ゲームセンター前で彼女とわかれてから、1人夕焼け空に照らされた空をぼんやりと眺めながらぽつぽつと帰って行った。
今日のことを振り返り、今後のことに一抹の不安を抱きながらも、心の中では楽しかったという思いがあった。
そして、今日のことで思い出したこととわかったことが2つずつある。
思い出したことの1つ目が僕の直感はほとんど当たるということ、
2つ目は蛾が強い人には逆らわないということ。
そして、わかったことと言えば彼女が相当な負けず嫌いだということと、
軽くなった財布の中身を見つめながらつぶやく。
「バイト増やさないとな。」
しかし、自分でも分かる程にその顔はにやけてしまっていた。
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