第5話 「音無杏奈」と書いて「ゲームセンター」と読む
一週間ぶり2度目のゲームセンター。
あんなことがあって、こんなすぐに来るとは思わなかったが、それよりもクラスメイトと、それも異性と来るとは1週間前の僕には確実に想像できなかっただろうな。
「そういえば、あんたって才栄学園に興味あんの?」
「……才栄学園ですか。僕は人並みくらいでだと思いますけど、急にどうしたんですか?」
「いや、昼休みに翼が話しているの聞いててさ。他にあれやる奴っているのかなと思ってさ。」
そういえば、昼休みにそんな感じの話をしていた気がするな。
~昼休み~
「くそ!! 昨日のもうちょいで行けたのにな。」
「うそ、まじで~!! 私、最初の方で脱落しちゃったから、やっぱ翼すごすぎでしょ!!」
「え~私も翼君の頑張っているところ見たかった~!! けっこうはじめのほうでおちちゃったしむずかしすぎだよ~!!」
「本当、それな!! 俺も途中までは翼の近くに居られたんだけど、他の奴らに邪魔されてダメだったわ。」
◇
そうだ!! 確か、才栄学園の編入試験だったかな。
才能の育成を第一とする才栄学園は才能ある生徒の勧誘に余念がない。そのため、通常の一般試験だけでなく、学校側が自ら生徒を招くスカウトや才能のみで合否を下す才能試験などがある。
この編入試験もその一つである。春、夏、秋、冬の年に4回行われ、全国の高校生が対象となっている。
一般試験であれば、1次試験で学力試験と体力試験を行い、それを突破した中から才能の実技試験が行われる。
一方、この試験では学校側が欲しい生徒に合わせた内容で行い、その回ごとに数人から十数人が選ばれる。
例えば、頭のいい人が欲しければ、ペーパーテストをするし、身体能力の高い人が欲しければ、体力テストで合否を決める。すごいときだと、テニス選手の才能を持った人物が欲しいからってテニスの試合をトーナメント方式で行い、優勝した一人を合格させたということもあったらしい。
実際、通常の試験方式よりもそういう特殊な試験の方がほとんどらしいから、その時の運も重要になってくるのだろう。
まぁ、僕自身受ける予定とかはないから関係ないものだけど......
「早くキャラ決めてくんない。」
「あっ、すいません!! もう少し待ってください。」
余計な回想シーンで、現実ではぼーっとしてしまっていたのか。
姿勢を正し、余計なことを忘れ、現実と向き合わなければ。
今、僕たちはゲームセンター内のとあるゲーム台を挟み向かい合っていた。
そのゲームの名は格闘ファイト、通称格ファイ。
誰もができるようなわかりやすくシンプルな操作方法で古くから人気のある2D格闘ゲームである。
僕も一時期は似たようなゲームをやることがあったから操作自体は大丈夫だと思うけど、初めてやるこのゲームでどのキャラが強いかなど分かるわけがない。
なので、とりあえずはかっこよさそうという理由だけでトラというキャラを選択した。
「あんた、それ選ぶんだ。結構普通ね。」
このキャラは普通なのか?……うん、全然わからん。
「決まったんなら、早く始めない?」
「はい。わかりました。」
待たされて少し退屈そうな彼女に急かされてゲームをスタートさせた。
ゲームでは彼女が操作するスピード型のキャラと僕のバランス型のキャラの勝負で相手の体力を徐々に削っていく展開となった。そして、互いに決定打となるような一撃を当てることができず、一進一退の攻防を繰り広げること10分。
「あ~ぁ、負けたわ。」
ギリギリのところではあったが勝利することができた。
「……あんたってどのゲームやったことあんの?」
「これをやったことはなかったですけど、似たようなのを一時期やっていたのでそのおかげかと。」
「だとしても、初めてのやつに負けるのは悔しいな。」
そう言うと、おもむろに100円玉を取り出し
「もう一回やんない?」
と尋ねてきた。というより、声色からして脅しだった。
主な収入源であるバイト代もほとんどが生活費として必要だから、あまりお金は使いたくないが、その威圧感にどうすることもできず、なけなしの100円玉を財布から取り出し、赤い涙を流しながら投入口に入れた。
~~~
もう一回、もう一回。
その言葉を10回ほど聞いたあたりで彼女との戦いに終止符が打たれた。
「やっと勝てたわ。」
彼女のその言葉に負けたにもかかわらず、心からの安堵をした。
もう、バイトで貯めたお金を切り崩さずにすむ。
「まさか、勝つのにこんな時間かかるなんてね。」
「長い間、やっていましたもんね。」
現在の時刻は6時30分、ここに来てから2時間近くも経過している。
まさか、このゲームだけでこんな遊ぶとは思わなかったな。
まぁ、平穏に学校生活を送るための出費だと思えばよかったのかもしれない。
けど、うちの生徒と会うことはなかったし、彼女的にはどうなのだろうか......
……………………ふぅ。
「では、僕はこれで......。」
何を話そうか考えたものの思い付かず。気まずい空気から逃げるようにしてその場を離れようとした。
「あ~、ちょっと待ってくんない。」
「……何かしたいゲームとかまだありましたか?」
あ~、やばいな。これは久々に来たな。
「いや、そういうんじゃないんだけど......。」
何かを考えるようにして言ったその言葉に怯えながらも次の言葉を待つ。
「あんた、私の人探し手伝ってくんない?」
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