第4話 「音無杏奈」と書いて「邂逅」と読む

 キーンコーンカーンコーン

 キーンコーンカーンコーン


 よし、今日も特に何もなく普通の一日を終わらすことができた。


 今日であのゲームセンター事件から1週間経ったが、今日まで特に何かがあったわけでもなく、平和な日々を過ごしている。

 特に今日は優斗君に邪魔されること無く、ここ最近で一番平和な一日であった。


 今日の予定は特にないことだし、街を少しプラプラしてみるか。


 たまには気分転換にと思い、街を歩いていく。気ままに歩を進めていくと、例のゲームセンター近くまで来ていた。


 マジか!! 今、男たちにあったらどうすればいいんだ!? 走って逃げるか? それとも、土下座か、土下座でいった方が良いのか?


 そんなことを考えていると、後ろから僕に声を掛ける人物がいた。


「ねぇ~あんた、そこで何してんの?」


 後ろを振り向くと、そこにはよく見知った女性の姿があった。

 大きい瞳に長い赤茶色の髪、スレンダーな体型が特徴の女性で名前を音無杏奈おとなしあんなと言う。彼女自身が知っているかはわからないが一応クラスメイトである。

 うちの学校の制服を少し着崩し、常にイヤホンを身に着け、両肩にはボストンバッグをかけた姿、そんな彼女の姿は、彼女のけだるげなしゃべり方と相まって彼女のギャルっぽさを一層際立たせている。


 要するに、僕とは縁がないタイプの人間である。


 クラス内でのカーストは佐藤翼よりも高く、陽キャの中の陽キャをしているクラスの中心人物であり、男と女、陽キャと陰キャを分け隔てなく接してくれる人らしい。

 だからこそ、僕のようなクラスに話せる知り合いが少なく、周りとあまり関わりを持たない人でも彼女のことを知っているのだ。


 まぁ、彼女とは今まで話したこと無いんですけどね。


「ねぇ~、聞こえている? 何してんの、そこで?」

「あっ、いや。ちょっと考え事を............、邪魔ですよね!! すぐどきます!!」

本能的にその場所から急いで離れようとするが、

「あ~、ちょっと待って。暇なら、今から付き合ってくんない?」

「…へっ?」


 想定外の言葉にバカみたいな声が出てしまった。

というか、一度も話したことない人を呼び出して何するんだ!?

今までの経験から察するに、校舎裏に呼び出してカツアゲするみたいな感じか。

よし、やっぱり逃げよう!!


「あ~、今さ、ちょっと人探しててさ。あんたってここら辺よく来るの?」

「……人探しですか?」

うん、全然違ったな。

この前読んだ漫画と展開が似ていたから、そうだと思ったんだけどな。

やっぱり、漫画に対な展開にはなかなか遭遇できないもんなのか。

「確か、1週間前くらいにそこのゲームセンターに来ていたくらいだと思いますが。」

「へぇ~、じゃ~さ。その時にうちの学校の男子生徒、誰か見かけなかった?」


 ……うちの学校の男子生徒か。あの時はいろいろと急いでいたから見逃がしている可能性もあるが、男子生徒は見なかった気がする。逆に見かけたのと言えば、男たちにからまれていた女子生徒くらいだったしな。


「えっと~、多分ですが男子生徒はいなかったと思います」

「……それって本当?」


本当ってどういうことだ!?


……もしかして、何か見落としているところでもあったのかもしれない。


 だとするならば.........まさか!! 助けた子が実は女装していた男子だったとか!! 

 正直、あんまり目が良くないし、少し距離が離れていたからはっきりと顔までは見えていなかったからあの子が女子だとは断言できない。

 そう言うことなら、可能性としては否めない。


 しかし、もしそうならば、男たちは何でナンパしていたのだろう?

ナンパするような男たちをも騙せるような女装であったのか、男たちにそういう趣味があったのか。はたまた、..................


「それでどうなん?」


 ……そうだ、いったん落ち着こう。

 今考えるべきなのは男がいたかどうかの話なのだから、漫画でもあまりなさそうなあの子が実は男だったなどという突拍子もない考えは忘れよう。


「やっぱり見てないと思いますけど。」

「……そう。」


 彼女は僕からの返答が期待はずれだったのか落胆したような表情を見せた。


「まぁ、いいや。ありがとね。」

「そんな大したことではないのでいいですけど...,,,」

「そう? ならさ、ついでにちょっと格ゲー付き合ってくんない?」

「格ゲーですか?」

「そう。もう少しここで探したいんだけど、来るのを待っているだけなのも暇だし、そこのゲーセンで格ゲーの相手してもらおうかなって。」


 う~ん、今日はバイトの予定もないし、この後も特にすることはないから時間自体はたくさんある。

 まぁ、バイト以外で予定がある日などほとんどないのだが。

 

 それよりも、この高校生活で人から何かに誘われるなんて、難しいものだと思っていたから正直めちゃくちゃうれしい。

 けれど、ほとんど初対面の人とそれも女子といきなり遊ぶなんて無理だ!!


「で、どうする?」


 だが、それ以上に............


「行かせていただきます。」


 断った後の学校生活が怖すぎて断るなんて無理だ!!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る