第3話 「お使い」と書いて「試練」と読む

 現在、僕はお使いのために駅前のゲームセンターに来ていた。


 時間としてはまだ余裕があるもののレイナさんと夕食を食べる約束があるため、急いでお使いを済ませないとな。そ

 れにしても、相手はレイナさんが一万円も使っても取ることができないほどの猫の人形だ。

 

 レイナさん補正があるにしても取れなさすぎだと思うが、どうなるかな............


◇◇◇


「何で......どうしてこんなに......」


 クレーンゲームとは至極単純な操作しか行わないものの、機種毎の特徴やクレーンの形、景品の形までをも考慮した位置取り、またはそれを凌駕するほどの運を持つ必要がある。

 そのため、同じ景品を取る場合であろうと、1回で取れる人もいれば、数千円を要しても取ることができない人もいる。

 だからこそ、このクレーンゲームという名のデスゲームでは100円玉一つで命運が分かれ、レイナさんからもらった軍資金が足りない場合でも、最悪課金をすることもいとわない覚悟をしてきた。


――しかし、結果を言ってしまえば、1回で取れてしまったのだ。


「簡単すぎなんだよ!」


 クレーンゲーム自体のアームの強さがもともと強く設定されており、アームが少しでも触れれば取れてしまうという仕組みで......ってか、よく見ると、このクレーンゲーム台『処分台』って書いてあるじゃん!!


 何でこんな台にレイナさんは苦戦したんだろうか............


 猫のぬいぐるみを取るという目的は入店5分で果たしてしまい、物足りなく感じた僕は違うゲームもやっていこうとぶらぶら見てまわることにした。


~~~


 店内を歩いていくと、ある一人の女性の姿が目に入った。


 彼女は僕と同じ高校の制服を着ていて、遠目から見ても美人だと分かる程の美貌を持っており、近くを通った男の大半が振り返るほどであった。

 そんな容姿を持っていることもあり、何人もの男たちが彼女に声をかけている様子であったが、誰一人として相手にされなかった。


「ねぇ~ねぇ~そこの彼女、暇だったら俺らと遊ばない?」

「そうそう!! 俺たちといいことしとうぜ!!」

同じように彼女へ近づく3人の男たちがいた。

「はぁ~またか~............、さっきから言っているけど、私は今ゲームしてんの。 だからそういうの無理」

「まぁ~まぁ~、そんなこと言わずに一緒に来てみたら楽しいよ」

「もう~面倒くさいなぁ!! あんたらのこと興味ないからさっさとどっか行ってくんないかな」


 彼女は先ほどから何人もの男に声を掛けられていたためか、その男たちに対して最初は面倒くさげに対応をしていたものの、次第に苛立ちの声色が現れ、貧乏ゆすりをし始めるようになった。


「本当に少しだけでいいから、何ならディナーもおごっちゃうよ!」

「マジで、あんたらしつこいなぁ!! これ以上やるんだったら警察呼ぶよ!!」

「っち、かわいいからって調子に乗りやがって!! てめぇ、ちょっとこっち来い!!」

「痛っ! ちょっと、あんたら離しなさ、んむーーむー!!」


 男たちの一人が彼女の腕をつかむと、即座にもう一人が慣れた手つきで口を押さえた。

 ちょうどこの場所は人通りが少なく、監視カメラの死角になっており、店員がすぐに駆けつけてくることには期待できず、彼らはそこを含めて彼女に話しかけていたのかもしれない。


 ……いや、そんな悠長に分析している場合じゃない!! 

 早く助け、な......助け.......助けないと......


 心ではそう思っていても恐怖で身体を動かせずにいる。


「おい、てめぇ!! そこで何してやがる!!」


 彼のその一言でここにいた4人全員の目線がこちらを向いた。


「お前、今すぐここから失せやがれ!! さもなきゃ痛い目見んぞ!!」

「あと、このことを誰かにちくりやがったら、ただじゃおかないからな!!」


 ……僕はどうすればいいんだ!!


 向こうには気性の荒そうな男が3人。周りには店員はおろか客の姿も見えない。

 だからと言って、助けを呼ぼうにもその間に彼女の身に何かが起こる可能性だってある。加えて、こんなやばい状況を助けてくれる人となるとさらに少ない。


 だから、ここで逃げるのだってしょうがない選択ではあると僕は思う。でも......


 後で後悔するような選択肢なんて選びたくない!!


 この前読んだ漫画のセリフを心の中で呟きながら、男の方へと近づいた。


「あの~、こういうのはやめ「うっせぇなー!! お前の意見は聞いてないんだよ!!」

「でも、やっぱ「てめぇ、このまま居続けるんなら本当にぶっ飛ばすぞ」


 ……だめだ、さっき心の中であんなに格好つけたのに、もう心が折れそうなんですが。


 こうなってくると、やっぱりと言うべきなのか本当にやばいな......


 せめてあの子だけでも助けられるような方法はないのか

 漢の顔を見つつ視界の端で何かないかと探しているとあるものが目についた。

あれならいけるんじゃないか............


「へっ?」


 見つけたものに意識がいき過ぎていたために男の拳に気づかず、変な声をあげながら壁に体が打ち付けられていた。


「痛ぁ!!」

「あ~あ~、おとなしくしとけばそんな怪我なんかせずに済んだのに、な!!」


 彼らは倒れている僕に対してあざ笑うように下卑た声を上げ、拘束されている彼女は申し訳なさそうな目線を僕に向けていた。


「これにこりたなら、さっさと去りやがれ!! 次はマジでねぇからな!!」

「それと俺たちに対して何か言うこと無いのかな!」

「本当......に、やめた......ほうが、......いい、ですよ」

「アァ!!」

「お前調子乗りすぎだわ。まじで、ぶっ飛ばすぞ!!」


と叫び、男は倒れこんでいた僕のみぞに蹴りを入れようとした............ その瞬間


「おい! そこの君たち何をしている!」


 男たちが振り向いた先にはこの店の従業員が叫びながら近づく姿があった。男たちは一瞬でその状況を理解すると舌打ちをして足早にその場を去っていた。


 ……あはは....危なかった。本当にたまたま従業員が来てラッキーだったな!……ということではない。

 

 実際には吹き飛ばされた際に僕が見つけていた呼び出しボタンにたまたま肘が当たり、それによって従業員が来てくれただけのことであった。

 彼女には大きなけがとか何かされたということはなさそうだったし、大丈夫そうでとりあえずは一安心だな。


 男たちがあの状況で彼女を脅しの道具にしたり、暴れていたりしていればもっと大変なことになっていただろう。だが、結局のところはあっさりとした幕引きだったため、正直ほっとしている。


 ……って、やばい!! レイナさんとの夕食の約束忘れていた!!


 彼女が無事店員に保護されていることが確認できたし、もう僕がここにいる意味ないだろう。


 辺りを見渡し、誰も僕のことなど気にした様子もないことに気づき、ちょっとショックを受けつつも目立たぬように一人その場から去った。


 結局、約束の時間から20分ほど遅れてしまい、レイナさんからは気にしてないよう~と言われたが、申し訳なさすぎて普段であれば5杯くらいおかわりするところを今日は2杯で我慢することにした。


◇◇◇


 私は男たちがいなくなってからも周りを気にするような余裕もなく、腕に巻いていた水色のミサンガをただ握りしめていた。


 しばらくして落ち着きを取り戻したときには助けてくれた彼の姿はもうおらず、お礼も言うことができなかった。


「確かあいつ、私と同じ制服着ていたよな......。」

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