第2話 「清水レイナ」と書いて「天然」と読む

「な~連。お前暇そうだから、俺の宿題やっててくれよ。」

「いや~あの...」


 今日もいつも通り、翼君たちとの日常を送xっている。


「そうそう、私たち今日の放課後忙しいからさ。どうせ君、暇でしょ。」

「だからさやってくれるよな。」


 机の上にに座り、高圧的な物言いをする翼君。他の3人もも詰め寄り、さらに圧をかける。


 ……ここは引き受けるしかないか......


 ガチャ


 勢いよく開かれたドアから4人の男女が入ってくる。

 翼君たちも振り返り、開かれた扉の方へと視線を向ける。


「……あっ。」


 彼らの姿を見るや否や、翼君たちは興味が移ったのか、僕のことなどいなかったのかの様に彼らの元へと行った。


 ふう~何とか助かった。

 翼君たちも彼らがいると、そちらの方に行って会話に混じる。会話に混ざらなくてもあまり目立った行動をしなくなるから一安心だ。


 彼らの存在は僕の安静な生活だけでなく、クラスの中でも支柱となっていた。

 もし、このクラスにカーストなどと言うものが存在するなら最下層は僕だろう。しかし、クラスカーストの最上位を言えば、翼君たちのグループではなく、彼らの、篠崎透しのざきとおるのグループになる。

 そのためか、彼らがいる時にはあまり目立った行動を取らず、僕も比較的安心して過ごせている。


 しかし......


「……」


 なぜだか睨まれている。

 そのグループ全員から睨まれているわけではないのだが、毎回視線をそちらに移すと、それに気づいてか篠崎君が振り返り、いつも睨んでくる。


 翼君の時とは違い、篠崎君とは話したことなんて一度もないし、これまでの人生で会ったことすらないはずなのになぜか嫌われている。


 翼君の時もそうだし、今回もそうだけど……僕って、そんなに嫌われるようなことをしたのかな...


 キーンコーンカーンコーン


 そんな不安とも疑問とも取れる僕の心はチャイムの音で渋々ながらため息交じりに切り替える。


 午後も頑張るか。


~~~


 その後はいつも通りに授業を受け、放課後となったので家へと帰っていた。


 現在僕は、様々な理由から実家ではなく学校近くのアパートで一人暮らしをしている。


 普通の高校生にとって一人暮らしという単語は今まで存在した様々な拘束から解き放たれ、自己中心的に暮らせる自由の象徴のような言葉に聞こえるかもしれない。

 しかし実際は、食事や洗濯、掃除に学生であれば勉学など生活を行う上でしまければいけないことをするという自立性が必要となるため、とにかく大変である。


「連ちゃ~ん、おかえり~~」


 今日やるべきことに考えをめぐらせていると、アパートの前で手を振りながら、のんびりとした口調で声をかけてくる女性がいた。


 こちらの女性はうちのアパートの大家さんで清水しみずレイナさんと言う。すらったした細身でありながら、出るところは出まくるほどの体型であり、セミロングの茶髪で、ゆるふわ系という言葉がぴったり合うような女性である。


「今日も帰りが~早いのね~」

「まぁ、そうですね、特にやることもありませんので」

「あらあらあら、そうなの~? もう少し高校生らしいこと~した方がいいんじゃないの~?」


レイナさんの言葉の攻撃

連の心は17のダメージを受けた


「……いやぁ~、僕としてもそうしたいのですが、なかなか友達ができないものでして...」

「そうなのね~。ということは~今、連ちゃん~ボッチなのね~」


レイナさんの言葉の攻撃

連の心は23のダメージを受けた


「それは大変だわ~。私の時は~すぐ友達ができた気がしたのだけれど~、今は大変なのね~」


レイナさんの言葉の攻撃

連の心にクリティカルダメージ

連の心は67のダメージを受けた


 いや、何で僕は会話しただけでこんなにもダメージ受けているんだ!!


 今の会話で分かる人は分かると思うが、彼女は見た目からイメージできる通り少し天然な方である。だからか、今のような発言が多々あり、僕の心をえぐるようなことも何度かあった。

 だが、僕の数少ない話し相手で優しい人なのは知っているし、今までの様々な経験から鍛えられた僕のHP(ハートポイント)は1万を超えるほどであったため、僕が心に負うダメージなどはささないなもので別にいいのだが......


ダメージはダメージなのだ!!


「まぁ~、それなら~、お使いに行ってきてくれないかしら~?」


 そんな僕の考えなどつゆ知らず、いつの間にか話が変わっていた。

 このように話していた話題を一気に変えることも多くみられるが、これもレイナさんの才能の一つなのだろう。


「えっ、お使いですか!? いいですけど、いきなりですね。それで、何を買ってくればいいですか?」

「……う~ん、そうね~、駅前の~ゲ~ムセンタ~の~猫ちゃんの~ぬいぐるみ~が欲しいな?」


……いや、それってお使いっていうのか!? それに今の注文、とっさに考えていた気がするし、疑問形だったよね!!  と叫びたくなるがこれもいつもの光景なので、その言葉は胸にしまった。


「……分かりました。じゃ、夕食買いに行くついでに行ってきますね」

「あら~、行ってくれるの~、うれしいわ~。あと~夕飯だったらうちで食べていかないかしら~?お使いしてくれるし~」

「本当ですか!! 今月食費やばかったので、迷惑でなければお願いします!!」

「あら~、それは良かったわ~。連ちゃんも~お金のこと頑張っているのね~。私もこの前~猫ちゃんを取ろうとしたら~1万円なくなっちゃったのよね~」

いや、それって結構やばくないか!? ……本当に俺が夕食にお邪魔させていただいても大丈夫なのかな?

「お金のことは~大丈夫よ~ 。なぜかね~ここのアパートに住んでいるだけで~お金がもらえるのよ~。だから夕食のことは気にしないでいいのよ~」


 いや、このアパート、水道代と光熱費込みで月3万円の格安の部屋だし、他に住んでいる人も2、3人ぐらいだろ!! 


 レイナさんの将来に大きなため息を吐きながら、猫のぬいぐるみを絶対取ってあげようと固い決心をし、レイナさんに見送られながら町へと急いで向かって行った。


――頑張ってください――様............

そんな言葉も聞こえないほどに..................

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