才能学園の落第者~凡人として普通を求めた僕の周りには才ある人間が多すぎる~
アルケミスト
第1話 「プロローグ」と書いて「始まり」と読む
生きていけば楽しいこともあるが、つらいこともある。
生きていけば成功することもあるが、失敗することもある。
例えば、合格倍率が10倍の試験があったとしよう。その試験で1人が合格すれば、9人は落ちているのだ。
それはスポーツの世界でも同じで、優勝しようと何人もの選手たちがしのぎを削り合おうとも、たった1人にしかその栄光は得られずない。
落ちた中にはあと1点足りなかった、あと1秒足りなかった、あと1歩足りなかった、あと1cm足りなかった......そんな人たちがいる。
一体、そんな人たちと合格した人たちとの間にそれだけの才能の差があったのだろうか。
僕はいまだにわからないでいる。
。
◇◇◇
春が終わり、次第に暑くなる5月中旬。
窓の外を見れば騒がしくも、楽しそうな徒生たちの姿がある。この時期になると入学時の静かな雰囲気はなくなり、クラス内ではそれぞれのグループが形成され、にぎやかになる。
それは、ここ榊 ヶ原高校でも同じであり、その中にも陰と陽という序列のようなものが存在し、それぞれがそれぞれのグループで青春を謳歌している。
「この髪型よくない、駅前の新しくできたところで切ってもらったんだけどさ......」
「いま流行っているこのバンドの曲マジやばいしょ!! マジしびれるわ......」
「今年のアニメの覇権は拙者の予想通りとなりましたね。でゅふふふっふ......」
「今やっているドラマの主役の二階堂くんさめっちゃかっこよくない、ファンになっちゃいそう......」
いくつものグループで多種多様な会話が行われている昼休み時。
僕はグループに定員などがあるわけでもないのに、一人クラスの端でボッチ飯をしていた。
ここで1つ気を付けてほしいことがある。ボッチ飯と言われると、マイナスのイメージが先行してしまうが、デメリットだけでなくいくつかのメリットもあるのだ。
例えば、先ほどのように周りの会話を聞くことで、話の話題を得ることができるとかだ。
……まぁ、話せる相手がいないんだけどね!!
そんな現実にため息をつきそうになるも、僕、
それは普通の高校生である僕が凡人の凡人による凡人のための高校生活を送るという大きな目標を持っているためだからだ。
「あっ、そういやさ今日もニュースになっていたよな、才栄学園」
「そうだったね、確か今日は陸上の女子が特集されていて、昨日は化学の男子が受賞の話とかだっけ?」
引き続き周りの会話に聞き耳を立てていると、とある学校の話が話題として挙がった。
この才栄学園と呼ばれる学校は国が運営および経営をしており、生徒たちの才能の育成に重点を置くという他に類を見ないような学校なのだ。そのため、毎年この才栄学園では数百人という小さい合格枠が入学希望者、総勢十数万人もの人々により競い合われ、合格倍率は4桁近くにまでいくほど狭く険しい道のりとなっている。
だからこそ、そこに集まる生徒たちというのは同年代におけるトップ中のトップの人たちだけで、同年代の高校生から見れば憧れの存在であり、アイドルやスポーツ選手の話をするような感覚で扱われるのだ。
「翼、今日も放課後にカラオケ行かね?」
「おういいぜ、なら加奈と麗奈もいかねぇか?どうせ暇だろ、今日も俺が楽しましてやるからよ! はっはっはっ!!」
「うっさいし~!! まぁでも翼となら楽しめそうだし行っちゃおうかな~」
「あ~私も、行きたい、行きたい翼君の歌ものすごくうまいもんね~」
「じゃぁ、行くの決定な! でもなぁ~このメンバーだけじゃ物足りないし、そうだ、他の学校の奴らも誘ってパーッとやろうぜ!!」
「いいじゃん、それ! マジ翼天才すぎ!!」
「それに賛成! 楽しそうだし、めっちゃ盛り上がりそうじゃん!!」
「そうだね~! もう今からテンション上がって来ちゃったよ!!」
騒がしい声の方に顔を向けると、そこには4人組の男女がいた。
彼らはクラス内カーストにおいて上位の方に君臨する奴らであり、その中でも中心となっている男、
その上、100人の女性が彼を見たら80人はかっこいいと言うほどのイケメンでもある。まぁ、80人とは言ったものの僕がやった場合、ブサイクやイケメンとか以前にみんなが「どうでもいい」とか「興味ない」といった感想しか言われないだろうから、ある意味、僕と彼とでは同じ土俵に立つことすらできないだろうな!!
などと一人自虐ボケをしていると話題の彼が近づいてきた。
「連君元気にしているか? ってか、そんな一人で弁当なんか食べて楽しいのかよ! まぁ、ボッチだからしょうがないだろうけどな!! はっはっはっ!!」
毎日のようにバカにしてくる彼は名字が同じことで入学直後の席順では僕の近くにおり、緊張していて声がどもりながらも僕が初めて話しかけた人物なのだが、
「こ、こんにちわ、佐藤翼く、んだよね?、いっしょに昼ごはん食べられないかなぁ?」
「あぁん、誰だテメェー!気安く話しかけてくんな陰キャが!!」
彼との初めての会話で僕は全力の右ストレートをくらわされえたような衝撃を受け、僕のメンタルはぼろぼろとなってしまった。そして、そこから立ち直るまでの間にクラス内での人間関係は構築されてしまい、僕は不動なきボッチという立ち位置まで上り詰めたのだ。いや、違うな、これは下り落ちたの間違いだわ。
……そんなことはともかく、この会話がきっかけで僕は暇つぶし感覚でバカにされるようになってしまったのだ。
「あっぁ、翼君、いやぁ、なかなか友達ができないからねぇ~、あっははは...」
「まず、お前は見た目がきもいからな! そんな奴に誰も話しかけたくねーよ!! それがなくても話さないだろうけどな、はっはっはっ!!!」
「それな、お前ってきもすぎてやばいもん!!」
ゲラゲラと汚い笑い声を立てながら男2人に馬鹿にされ、残りの女2人はその後ろでクスクスとバカにしたように笑っていた。そんな光景に嫌そうな目線を向ける人がいれば、話のネタにしようとする人もいる。だが、結局のところ、周りの生徒たちにとっては日常となってしまっているようでいつもの光景のように眺められていた。
まぁ、正直、こういうことをされていい気になることはないが、何度もされていれば、慣れで怒りやむかつきを覚えることも段々となくなってくるものだ。
「本当、お前みたいな底辺の奴でもこの学校入れるなら、やっぱり才栄学園に行くためにっもっといろんなことやっとけばよかったぜ!!」
「本当それな! ってか、まじで、翼なら入れたんじゃね!!」
「2次の方までは行ったんだが、そこで落とされちまってよ!! マジで前日にサッカーの試合なんてわざわざやるんじゃなかったわ!」
「ってことは、本気で準備してれば受かったかもしれないってこと!? それってマジでやばくない!!」
「え~、じゃ~今のうちにサインとかもらっとこうかな~!」
4人組は僕のことなど忘れたかのように、話しながらどこかへ行ってしまった。
一人となった僕は窓の外に視線を向け、なぜこうなったのだろうかと過去を振り返ったものの答えは出ず、一人大きな溜息を吐いた。
「普通って難しいな......」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます