13.図書館にて
すう、はあ。
すう、はあ。
何度かの深呼吸で落ち着きを取り戻したわたくしは、誰にも気取られないように急いでその場を離れました。
その足は、自然と元の目的地だった図書館を目指します。
(あそこなら考え事をするにもちょうど良いですわ。)
そして人気のない一角にあるお気に入りの席に腰を下ろすと、ひとまずの安堵からか、ふうっと全身の力が抜けました。
(さあ……、情報を、整理しなければなりません。)
ジェフリー殿下がコンチュ様を寵愛なさるのも、結果わたくしを悪者のように扱うのも、そもそも初めからわたくしを嫌っておられたのも、お考えの偏りも。
全部、わたくしたち革新派を引きずり下ろして王家に取り入りたい古参貴族たちの差し金で、その子息たる側近候補の方々の暗躍によるもので。
彼らはいずれわたくしを排除し、アクミナータ家を弱体化させるおつもりで。
さらにフラン様は古参派のその動きを利用して次期国王夫妻をご自分の意のままに操り、我が国を裏から支配しようとなさっている。
(そして残念なことに、それは現状とても上手くいっています。このままでは殿下は完全に彼らの、いえ彼の傀儡と化してしまうことでしょう……。)
彼らの行動と企みはとんでもない反逆です。
わたくしたち家族にとっても我が国にとっても害悪でしかありません。
(ですが、ほいほいと乗せられてそんな連中ばかり重用してしまう殿下はもっと問題ですわ!)
そもそも側近候補については、殿下に選択権が全く無かったわけではないのです。
家格が高く、古株である古参貴族が有利だとはいえ、多少は派閥などのバランスを取って選定されていたにも関わらず、現に殿下はお気に召した方々を残して一部を解任してしまっているのですから。
わたくしは遠ざけられた方々を何人か知っていますが、そのほとんどは至極常識的な方々でした。
おそらく、彼らを邪魔だと判断した者たちとの水面下での「貴族らしい」争いに敗れてしまったのでしょう。
お兄様いわく、拗らせた古参貴族ほどそういったことには長けているそうですし。
(まったく、冗談ではありませんわ。)
耳触りの良いことばかり並べ立てるご友人たちを側に置くのはさぞ心地がよかったのでしょうけれど、そのように曇った目のままで国王になられたら、臣下も民もたまったものではありません。
国のためにも、わたくしとその身内のためにも、即刻目を覚ましていただく必要がございます。
(まずは側近候補の彼らを何とかして殿下から引き離さなければなりませんね。)
* * * *
パラリ、パラリと課題に使う書物をめくりながら、わたくしはまた思考の海に沈みます。
(引き離すとはいっても、公にやろうとすれば妨害を受けるでしょうし、わたくしは未だ王子妃にすらなっていない身。
婚約関係にあるとはいえど一介の侯爵令嬢にすぎず、非公式に、内々で陛下に具申できる伝手があるわけでもありません。)
春先の柔らかな木漏れ日が差し込み、艶やかに磨かれた机の上で揺らいでいました。
(誰が敵対してくるかも明らかではない以上、慎重に動かねばならないことは分かりますが……。
それでも、いっそ処罰を覚悟で陛下に直訴すべきでしょうか?
けれど王家に楯突いた、翻意と取られて取り潰しなどされたら目も当てられません。
とにかく、一度家族に相談だけでも…。)
先ほどの極度の緊張から解放されたせいか、うっかり
(ああもう、あの方、本当に厄介ですわ。)
「フラン・ショーン……あまり目立たない方だと思っていたけれど……。」
わたくしが思わずそう呟いたとき。
「おや、先客がいると思ったら貴女でしたか、アクミナータ侯爵令嬢。」
「!」
急に背後から声をかけられ、弾かれたように振り向きます。
「貴方は……!」
ほかの誰かと見紛うはずもない、特徴的な銀色がかった青い髪に、同色の瞳。何よりその繊細かつ鋭利な風貌、佇まい。
(ブルージャヴァ……いえ、ブルーノ卿!?バルビシアーナ公爵家のご令息!)
そこにいらしたのは、美しくも冷徹と評判の宰相御子息でした。
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