最終話 鏡のなかに咲く桜


 それから僕は数日間、家の窓から空を見上げては放心状態だった。思い返す思い出のなかにいる桜夢はいつでも美しくて、変わらぬ笑顔で彼女が願ったままの思い出で埋め尽くされていた。結局、僕は細かい事情は知らないままだし、これからも知らないままだろう。そう言うより知りたくない。それは、今ある思い出が知ってしまって塗り替えられることが嫌だから。結局、僕は現実から目を背け続けていた。これからもそれは続く。


 1週間立ってやっと僕のなかで少しずつ消化し始めていて、ただこの思い出を忘れないように残された手紙のように生きようと前向きになっていた。この世界が自由な彼女には物足りなかった。あの白い部屋にいるべき人じゃなくてもっと広い世界に飛び立った。それだけだ。僕と桜夢は住む世界は一緒でもなにかが違っていて本当だったら交わることのない世界。いろんなものに囲まれた僕と真っ白な世界に囲まれた桜夢はそもそも住む世界が真逆で、それでも同じ時間軸。同じ物を映しているのに反転している鏡のように僕と彼女の世界は同じでも何もかもが反転してしまっていたんだとそう思うようになった。


 光ったスマホの画面にはアプリに入力されたの通知が来る。ここしばらく外に出ていなかった重い体を動かし、身支度を済ませて、手にはエーデルワイスのネックレスを腕に二重に巻いて家を出た。


 外はすっかり春の装いになって暖かな日差しが僕を照らしていた。不思議と視線を感じたような気がして、見上げた先には一つの桜が咲き誇っていた。

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鏡のなかに咲く桜 @wakaco322

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