第24話 マフラーの季節
「なに。ぼーっとしちゃって。何かあった?」
目の前で手を左右に振るのを見て我に帰る。
「いや、別に。ちょっと考え事してただけ。」
紺色がベースのパジャマを着て左手からは管が伸びる。ここに来る度に装具が増えている。
「本当、これ邪魔だな。外してよ。」
左腕を差し出されて焦る。
「いや、僕は医者でもなんでもないので無理です。」
「冗談だから。真に受けないでよ。真面目くん。」
少し前まであったふっくらとした頬も心なしかなくなってきた。鼻のしたに管を着けて、以前より声も覇気がなくなった。
「木の葉っぱも散ってきてる?」
「そうだね。大分枯れるかな。朝方も冷え込むし、もう冬もすぐに来ちゃうかも。」
「そっか。今年のクリスマスプレゼント考えなきゃ。」
「気が早いって。まだ一ヶ月以上はあるよ。」
「早く考えないとサンタさん困っちゃうでしょ?」
子どものようにはしゃぐのはなぜか懐かしくて、昔はあんなふうにはしゃいでいたなと過去にふける。
「じゃあ、何が欲しいの?」
「教えない。サンタさんに手紙書くから。教えない。」
なんだか微笑ましくなる。
「なんで笑うの?」
「いや、そんな可愛いことしてるんだって思って。」
無自覚なのか疑問しかなさそうな顔で見つめてくる。
クリスマスなんてと思っていたけれど、クリスマスムード一色の街を見れば自然に意識するものでそんなかを男一人で歩くことがなぜか気まずい。
たまたま通りかかったアパレルショップ。一番目に付くところに並んでいるのは厚手のマフラーが何色か。おもむろに白を手に取る。
「もしかしてプレゼントですか?」
まさかの店員に話しかけられて今にも逃げ出したい。
「あっ、まあそんな感じです。」
「アイボリーが一番人気で、最近再入荷したばかりなんですよ。」
「そうなんですね。」
ここに来てなんて返したらいいのか戸惑う。ここまでくると買わなきゃいけない気がする。でも、クリスマスのプレゼントに買ってもいいかもしれない。
「じゃあ、これください。」
「ありがとうございます。お会計させていただきますね。」
奥まで入ったが普段は絶対に立ち入らないような店内でそわそわする。
「ラッピングしますか?こちらの中からお選びいただけるんですけど。」
「じゃあ、これでお願いします。」
「はい。ありがとうございます。」
誰かにプレゼント、ましてや異性になんて買ったことないし自分のセンスがこれでよかったのか自信がない。
「お待たせしました。こちらお品物になります。彼女さん喜ぶといいですね。」
満面の笑みで渡される商品で実は彼女がいないなんてことは言い出せずここは嘘を貫く。
「喜んでくれますかね。」
「はい。絶対大丈夫ですよ。私だったら嬉しくてたまらないです。」
お世辞だと思うがそれでも少し自信が持てた気がする。
手元の紙袋にはラッピングされたマフラー。紙袋のなかの蝶々が歩く度にふわふわと舞う。
葉っぱはすっかりと散り、その代わりにイルミネーションが取り付けられている。日が暮れるのも早くなり、イルミネーションで街は照らされる。家に帰ればゲームモニターに照らされる。
「クリスマスの予定は?」
「いや、特にないけど。」
「あの例の子は?デートとかしないの?」
「デートだなんてそんな。」
「ええ、誘っちゃえよ。プレゼントとか買ってさ。そこ後ろ敵いる。」
「とりあえず、この辺で待機するわ。で、そういう佐藤くんは予定あるの?」
「もちろん。俺は彼女とイルミネーションデート。」
会話は弾み、コントローターの手つきは忙しい。
「彼女いたのか。知らなかった。」
「いるよ。あれだったらダブルデートとかどうよ。」
「いや、それは無理だ。」
「なんで。そんなに見せたくないの?」
「そういうことじゃなくて―やばい敵来てる。」
より一層手元は忙しくなる。
無理だと言ったけれどそれにも根拠がない。でも、感じてしまう。それはいつだって同じ場所にいる。ここ最近はあからさまに病人っぽい装具も増えていく。違和感はずっとあったはずなのにそれを知りたいという好奇心はなかった。
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