第19話 後期の授業

 夏のジリジリとした日差しは消え、秋が近づいていることが実感できるぐらいになった。

 大学も後期の授業が始まり、なんとか無事に前期の単位も全て取得できたのでひとまず安心したスタートを切った。できるだけの単位を取ろうと詰め込んだ授業と土日メインで入っているバイトのせいで桜夢のもとへ通うことはぐんと減ってしまった。定期的に通っていたのが不定期になってしまい、どことなくすれ違いが起きているような気がする。

 指定された教室に入ればもう授業も始まるというのにがら空きの教室。後ろ過ぎない窓際の席に腰掛ける。

「隣いい?」

 声をかけてきたのは見覚えのある顔。でも、名前は知らない。確か同じ学科の人と言うぐらいしかわからない。

「俺、佐藤和真。」

「あっ森下桜翔です。」

 僕とは違って大学生を満喫していそうな感じで、僕とはほど遠い人な気がする。

「何か趣味とかあります?」

「ゲームぐらいですかね。」

「まじっすか。俺もゲーム好きで、こんなのやってるんですけど。」

 スマホ画面には自分がやりにやりこんでいるゲームでテンションがあがる。

「僕も同じのやってます。」

「今度一緒にやりましょう。連絡先教えて貰えます?」

 スマホを取り出して連絡を交換する。多分、大学に入ってから初めて増えたかもしれない。

「なんてことがあって。初めて大学生だなって実感した。」

「楽しそうだね。前の桜翔くんに比べたら今の方がいいかな。無愛想だったし話しかけにくかっただけだよ。きっと。」

 桜夢はいつもと変わらない。でも、あれだけ気に入っていたワンピースは着なくなっていた。ベッドのリクライニングを起こして、座っていることもほとんど。ここ最近はパジャマ姿のところしか見なくなった。

「でも、その話しかけた佐藤さんの気持ちもわかるな。」

「なにがわかるの?」

「いや、桜翔くんは無愛想だったよ。でもね、出てる雰囲気がすごくやわらかいの。それに桜翔くん最近変わった。なんかもっと表情が固かったけど今は大分やわらかくなった気がする。

「無愛想だったよって悪口?」

「そんなつもりじゃないけど。」

「そんなに落ち込まないで。冗談だから。それに無愛想だなんて自分でもわかってるから。

じゃあ、そろそろ予定あるからこの辺で。前より来れなくなったけど、時間見つけてまた来るね。」

「うん。わかった。」

「じゃあ、またね。」

 そう言って出て行く部屋。僕はこのときから薄々感じていたことがある。でも、僕はそれを必死に隠そうとしていることに。

 次の日、学科の必死授業に参加する。席はだいたい決まっていて後ろの方はいわゆる陽キャみたいな人ばかりでそこに座るのは気が引ける。

「この授業の評価方法は課題とテストで―」

 教壇でひたすらこの授業の概要を淡々と説明している。そんなことはもはやどうでもよくて、早く終わらないかなぐらいしか思わない。

 夏休みは僕にしてはかなり充実していて桜夢のやりたいことリストにあった花火、りんご飴、花火、お出かけは達成していてそれだけでもかなり充実していると思う。

 バイトとゲームに明け暮れていた1年の夏休みに比べたらより大学生っぽい夏休みだったと思う。ただ、1つ気がかりなことがあってこれだけ通ってほとんど他の人が出入りしているところを見たことがない。いても、それは職員の方で家族や友人が訪れるところに出くわすことは今の今までない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る