第17話 エーデルワイスとシンデレラ
「どれにしようかな。こういうのもアンティークっぽくてかわいいな。こっちもシンプルでいいね。」
並んでいるのは種類が豊富すぎるぐらいの文房具。昔はこんなの見るのが大好きで時間さえあれば見に来て、使いもしないのに集めていた。それが、漫画になってゲームになって年齢を重ねる事に集めるものはグレードアップしていた。
「これ買ってくるから待ってて。」
そう言い残してレジに向かっていく姿。初めて会った日のことを思い出す。もうあの日から月日が経って季節までもが移り変わっていた。
戻ってくるのを待つ間、店内を見渡す。桜の置き物があった場所はもう別のものが並んでいた。
「綺麗だね。」
会計を済ませたのか後ろから話しかけられて驚く。
「うん。ここにあの桜のやつ並んでたんだ。」
「ここにあったのか。せっかくなら何か買っていこうかな。」
特設コーナーでこの日はハンドメイド作品の出店でお花をモチーフにしたアクセサリーがずらりと並ぶ。
「これがいいかな」
そう手に取ったのは小さめの白い花がついたネックレス。
「それ可愛いですよね。エーデルワイスをモチーフにした作品です。お姉さん絶対似合いますよ。」
「エーデルワイスかぁ。じゃあ、これにします。」
「ありがとうございます。お会計いたしますのでこちらへどうぞ。」
「僕が払うよ。」
「いいよ。私が欲しかっただけだから。」
「いいから。」
お会計を済ませれば綺麗に包んでくれて、最後まで丁寧な接客をしてくれた。
「はい。これ。」
「ありがとう。なんで買ってくれたの?」
「この前、誕生日プレゼントくれたでしょ。そのお返し。だから早めか遅めかわからないけど僕からの誕生日プレゼントってことで受け取って。こういうのは返さないと気が済まない主義なんで。」
「なにそれ。どこかで聞いたことあるセリフな気がする。でも、ありがとう。ねぇ、着けてよ。」
包みからネックレスを取り出して、後ろ向きになった桜夢の首元にネックレスを着ける。視界に入った足下は靴擦れなのか赤くなっている。
「花柄に花のネックレスってすごい花が好きな人みたいになっちゃった。でも、かわいいから満足。」
「それより、足大丈夫?靴擦れっぽくなってるけど。」
「バレた?やっぱり、初めて履く靴はダメだね。」
「絆創膏買ってくるので座って待ってて。」
近くにあったコンビニでさっと絆創膏を購入して、座っている桜夢のもとへ駆け寄る。足下にしゃがんでサンダルを脱がせて絆創膏を貼る。その様子をじっと見つめられている。
「なんか惚れちゃうな。シンデレラになった気分。」
「惚れるとか恥ずかしいから。ただ、そんな足で歩いてたら普通に心配。それにシンデレラはこんな靴擦れしながら歩かないだろ。」
「恥ずかしいんだ。耳真っ赤だもんね。」
そう言われると恥ずかしさも増す。自分より小さい足に貼った絆創膏はしっかりと靴擦れした部分を覆い役割を果たしている。
別にこれといってどこかにいったわけじゃないけれど、それでも時間はあっという間に過ぎるもの。
街をゆっくりと歩いて行く姿を半歩後ろから着いていたがその姿に思い焦がれた。そして、桜夢の手をそっと握った。女子と手をつなぐなんて初めてだしこんな風にしていいのかわからない。でも、握った手はしっかりと握り返された。
「ねぇ。エーデルワイスの言い伝え知ってる?」
「知らない。何?」
「地上に舞い降りた天使に恋した登山家の話。でも、それは叶わない恋で登山家は苦しんだ。苦しみから救って欲しいと祈った結果、天使は地上に花を残して行った。それがエーデルワイス。」
「詳しいんだね。」
そうかなと言って笑う首元のネックレスは日に当たって輝いていた。そんな楽しい時間もあっという間に過ぎてしまうもの。
「今日、楽しかったな。この楽しい時間がずっと続いてくれればいいな。」
帰りは電車に揺られて、帰宅ラッシュより前の車内は空いていてまだ人が座れる余裕があった。
「本当に送っていかなくていい?」
「大丈夫だから。ちゃんと帰れるよ。」
僕の最寄りである駅に着くアナウンスが鳴り響く。
「じゃあ、気をつけて。」
「うん。今日はありがとう。またね。」
手を振っている桜夢をギリギリまで見送る。いつも使っているはずの駅なのに今日はいつもより寂しい。まだ、帰りたくないと思ってしまう。
結局、何も買わずに帰ってきた僕はここを出たときと何も変わっていない。見た目は。中身はなんだか余韻に浸っているようでふわふわしていた。僕のなかで初めて感じるものが芽生えていることに薄々感じ始めた。
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