第15話 飲み干したコーヒー

 アナログを置き時計は11時24分から規則的に時を刻むことを辞めていた電池が切れてしまったようで交換しなければならない。コーヒーもすっかり冷めてしまって、量もあとひと口ほどになっていた。

 必死に浴衣を着る練習をしていたのかなと思う内容もあって僕が思っている以上に頑張り屋な一面があると知った。次にしっかりと書かれていたのは8月になってからで、それは花火があったときのものだ。


8月4日

浴衣を着て、花火を見て、りんご飴を食べて夏っぽいことを一気にした1日。

本当は屋台とかも回ってみたかったけど、さすがに許可は下りなかったな。

ここしばらくご飯もまともに食べられない日が続いていたけど、りんご飴はすごく美味しかったし不思議と食べ切れた。

欲を言えば最後まで一緒に見たかったけど、それは無理だったね。

ちゃんとプレゼントも渡せたし、今日やるべきことは全部できた。誕生日ちゃんとわからなかったし、体調崩したこともあって顔合わせないこともあったから遅くなったけどそれでも渡せてよかった。教えてもらったネットショッピングがここで役立った。ちゃんと見て決めたかったけど仕方ないね。

誰かと花火見るなんて何年ぶりかな。桜翔くんと見れてよかった。これは淡い夏の思い出

こんな時間がずっと続いてくれればいいな

来年もこの日がきますように


 今年もあの花火大会はあるのだろうか。もし、あるのならまた行きたい。

 朝から何も食べていないからか空腹が襲う。時計の電池も買いに行かなければならないし、たまには外で済ませてもいいなと思いたって冷たくなったコーヒーを飲み干して、身支度をする。

 朝の通勤ラッシュはとっくに過ぎ電車もガラ空きだ。電車に揺られて着いた駅は何度も訪れた場所で見慣れた場所をすいすいと歩いて行く。

 なんとなく入った喫茶店。入ってみれば前にも来たことある場所でなんだか懐かしくなった。

 開いている窓際の席に案内され、店員がお冷やを持って来てくれた。

「ご注文お決まりになりましたらお呼びください。」

 メニューを開けば前に来たときと何も変わっていなくて安心する。

「すみません。注文いいですか?」

「はい。このプリンとアップルジュースをお願いします。」

「自家製プリンとアップルジュースをお一つずつですね。かしこまりました。しばらくお待ちください。」


9月3日

お出かけした。これはデート?デートって言えるのかな?特にこれと言って予定は立てなかったけどそれで正解だったと思う。

サンダルで靴擦れはしちゃったけど、桜翔くんが絆創膏買ってきてくれてすごいやさしかったな。

食欲なくて心配させたくないから食べられそうなプリン食べたけど、すごいおいしかった。無限に食べられるかもって思ったけど、食べきったらそうでもなかった

エーデルワイスのネックレス。わざわざ買ってくれた、初めてのプレゼント。着けてもらったときキュンとというかドキッとした。初めて感じたかもしれない。この心を掴まれる感覚なんて言うんだろう?

もし、自分に何かあったらそれは桜翔くんに残していこうと思う。それまでは私が大切にする。

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