第12話 夏の計画
2週間か3週間ぶりに訪れたところは前に来ていたときとは違う緊張感が走った。この間に何があったかわからないからこその不安もあった。
「久しぶりだね。いつぶりだっけ?」
扉の向こうにいた桜夢はいつもと同じように僕を受け入れてくれた。ただ、前にあったときより細くなった気がする。服の袖から見える腕にはいくつもの針を刺したようなあとが残っていていかにも病人という感じで僕は現実を突きつけられたような気がした。
「届けてくれてありがとう。天気悪かったし大変だったでしょ。受け取ったとき思った以上に箱大きくてびっくりしちゃった。」
そう言って嘘偽りのない笑顔を向けられる。理由を知りたくてうずうずしている僕がいる。でも、この状況で聞きたくない僕もいる。
「どういたしまして。面会できないって言われて心配してたけど、元気そうでなにより。」
「そうだよね。最近天気も悪かったしちょっと体調崩しちゃってね。そんなところ見せるのも申し訳なくて。今年は織り姫と彦星会えるかな?」
「どうだろうね。」
「それにしても1年に1度しか会えないなんて可哀想だね。でも、それでも好きって思い続けてるのかな?」
「それは思い続けてるでしょ?」
「本当に?」
「これで別の好きな人がいましたなんて嘘でもそんな話にしたくないでしょ。」
「確かに。せっかくきれいに収まったのにわざわざこじらせる必要ないか。
笑いながらいつもの手帳を広げた。
「もうすぐ夏だから夏の計画立てようよ。夏と言えば何するの?」
話を逸らされたような気がするけど、僕から戻す勇気もなくそのまま続行した。
「浴衣着ることじゃないの?そのために買ったんでしょ?」
「まあ、それもそうだけど着るだけじゃなんかもったいないかなって。せっかくならこれ着て出かけたい!どこがいいかな。」
夏が始まりそうな日差しが差し込んでこの部屋の白に反射して眩しい。そして、楽しそうに計画をたてようと言ってくる桜夢の姿もいつも以上に眩しく思えた。
「浴衣を着て行くのは祭りとか花火大会じゃない?姉ちゃんが浴衣着てそう言うところ行ってたから。」
「えっ。お姉さんいるの?」
確かにお互いの素性は何も知らないし、そんな話にもならなかったけれど何度も会っていたからとっくに話したと勝手に思い込んでいた。
「まあ、3つ上にいるよ。そんなに驚くことだった?」
「いや、これだけ会ってるのにあんまりそう言う話にならなかったなって思って。まだ、お互い知らないことだらけだったね。」
2人も揃って同じことを思い込んでいて、今更になって素性を知ることも変な気がする。それぐらい僕たちの間柄は近くなっていた。
「お姉さんいるのかぁ。私一人っ子だからな、兄弟いる感じ全然わかんないな。」
自由でマイペースだなと思っていたけれど一人っ子と聞いて納得した。
「じゃあ、浴衣着て花火とか見たら夏っぽいね。そう今度あるの。」
見せてきた紙にはでかでかと花火大会の文字ともう少し先の日程が書かれている。ちょうど大学の試験の最終日で夏休みの始まりとしてはピッタリ。
「花火ってここから見られるの?」
「うん。一応この部屋からも見られるよ。外からも見れるけどいつも面倒だし、外熱いから中からしか見たことないけどね。」
「そうなんだ。花火見られるとか贅沢だね。」
「そう!特権よ。高い建物とかも少ないし、このときばかりはここにいてよかったって思う。だから一緒に見よう!ね?」
その流れで思わず承認使用としたけれど、よく考えればここは病院。面会時間だって決められている。そう簡単に首を縦に振ることはできない。
「花火って夜だから面会時間過ぎるけど大丈夫?」
「真面目だね。まあ、なんとかなるから。」
いいのか悪いのか半ば強引な気がするけれど、本人がいいと言っているならば任せておこう。それに僕よりも断然的に詳しいのは桜夢のほうだからまあきっと大丈夫だろう。少々不安は残るが。それよりも大学の試験の方が心配だから僕はそっちの不安だけを抱くことにする。
桜夢は手帳に僕はスマホのアプリに予定を書き入れる。基本的にバイトと大学の予定ぐらいしか書き入れていないアプリに全く別ジャンルの予定が入った。やりたいことリストにも花火をみることとなぜかりんご飴を食べることまで追加されていた。
「じゃあ、あとは任せておいて!浴衣もちゃんと着方練習しておくから。楽しみだね。」
お互い今年の夏の予定が1つでき、まだ始まってもいない夏の訪れにわくわくした。
「大学の試験とか課題でちょっと来る頻度減るかもしれない。一応伝えておくから。」
「それは夏満喫するためには頑張らなきゃだね。それにちょうどいいね。桜翔くんは学業。私は浴衣の着る練習とあとは―たくさん寝とくからお互い専念できるね。」
「なんだそれ。」
専念することができたのかどうかわからないけれど、きちんとそれぞれのやるべきことをきちんとやると言うことで約束が成り立った。
この顔を合わせていない期間に何があったのかはもっとあとになって知ることになる。
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