第8話 1年前の葉桜が終わる頃

4月26日

いちごを2人で食べた。甘くてとても美味しかった。

いつもフルーツの処理係みたいにさせちゃって悪いな。みんなが食べやすいものって思って持ってきてくれるけど私の胃袋の容量と合わないから困るな。好きだからいいんだけどね、誰かと食べた方が特別だね。

全力で生きるみたいなこと言ったけどそれはもう自分が決めたこと。少し反抗してでも絶対やってみせるから。


 今思い返せば、涙ぐんだ姿を見たのはあの日が最初で最後だった。

 全力で生きるからと僕に宣言してきたこともどんな意図があったのかまだここまでではわからない。

 部屋に入り込む光は手帳の文章を読み進める上では丁度よくて、むしろ心地いいぐらいだ。

 ページをめくればどのページも綺麗なバランスの整った字が並ぶ。イラストも可愛らしい。


5月1日

世の中はゴールデンウィークの時期になりました。

会社も休みなのか家族が毎日のように来る。ありがたいけど迷惑。

体調はどう?何がほしい?ってそんなに聞いても何も変わらないから放っておいて。

ほしいもの言ったもう手に入らないからいらない。そんなに聞かれたら嫌でも思っちゃうから辞めて。腫れものを触るように扱わないでほしいってのが本音。


5月10日

メイクしてみたかったから頼んで買ってきてもらった。ありがとうございます。

私もあんまり詳しくないからちゃんとわからないながらにも決めておいてあげればよかったな。たぶん、買うの気まずかったよね。

自分って女の子なんだなって思った瞬間だった。テンションあがったというか、ときめいた!いつも気に入って同じワンピースばっかり着てるけど別のも着てみたいな。世の中の女の子ってこんな楽しいことしてるのかな。いいな。

でも、そうだよね。私もおしゃれしてみたくて買ってもらったワンピースだったし、まともにおしゃれ着なんて持ってなかったから買ってもらったときはうれしくてたまらなかったな。でも、そろそろ新調してもいいかな。

あと、桜翔くんが初めて笑ったところを見た。やっとだ。

それにクレープまで買ってきてくれた!いちごがたくさん入った

ずっと食事制限されるから初めて食べたけどあんなに美味しいんだ。あのあとしっかりバレて怒られたけどね。それでも痛くもかゆくもない。もう後悔しないって決めたし、美味しい物たくさん食べられるならそれでいいもん。

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