第6話 できたてのコーヒー

 電気ケトルのぶくぶくと泡を立て、まもなく完了しそうな予感がする。マグカップにインスタントコーヒーを入れ、お湯を注ぐとコーヒーの香ばしい香りがふわっと広がった。

 冬は通り過ぎたと言うのにホットで飲みたい。


4月15日

桜の置物?を持ってきてくれてとても嬉しかった。

でも、急に着たから着替えてなかったんだけどね。やっぱりパジャマ姿はなんか恥ずかしいから。

今年も見逃しちゃったし、これで気軽に桜が見れます。毎年、見たいなって思いつつ見ることもなく過ぎていくのでこんな些細なことでも思い続けてみれば今日みたいに叶う日が来るかもと思うとあきらめなくてよかった。

そして今日から桜翔くんと友達になりました。タメ口で話す許可ももらいました。桜夢って読んでって言ったらちょっと恥ずかしそうだったけれどそのうち慣れてくれたらうれしいな。

毎年書いていた今年こそはと書いていた友達を作ることがこの歳になってやっと叶いました。なんだかいい1年になる予感がする。

ちょっと強引だったかもしれないから、そこは申し訳ないな。

友達にしたいなと思う直感は当たっていたようです。


 読んでいると自分の記憶と照らし合わされてどんどん鮮明になっていく。自分でもあの日なんで買って持って行ってあげようと思い立ったのかわからない。ただ、僕のなかでどうしても見せてあげたいという衝動に駆られた。

「自覚あったんだ。」

 あの日、半ば強引に友達になったけれど、あまりにも真っ直ぐに言ってくるからその思いを断ることもできずに受け入れたけど、それもそれでよかった。

 桜夢って呼ぶことちょっと抵抗があった。それもそのはずであまり友達付き合いがあるほうじゃなかったから同世代との付き合い方を忘れかけていたし、ましてや女子相手なんてもってのほか。


4月16日

治療の山です。

安静に安静で、ご飯もしっかり管理されて、薬も飲んで

この時間が続いたとしても無駄なのかなって思うともう思いっきりやりたいことやりたいな。このままなら後悔だらけだよ。と言いたいところだけどもう一周回って振り切れる。


4月20日

甘い物とか食べたいな。濃い味とか。

でも、食べてなさ過ぎて受け付けないかもしれない。

いつもと変わらない。外から見える景色を見て、聞こえる音だけ聞いてれば1日終わる。つまらないけど、こうするしかない。


 僕には見せてこなかった胸の内。自由な人だったけれど、実際は縛られていたのかもしれない。自由に見えていたのは彼女の内面だけで、端から見れば病院と家の行き来で、食事も管理のもと、薬も飲み、行動まで制限されているのは閉じ込められているように見える。

 マグカップに入った熱々のコーヒーはまだまだ冷めそうにもなく湯気がもくもくと立ち上る。カーテンを開けて太陽の光を部屋に取り込めば、すっかり春の兆しで暖かな日差しは僕をそっと包み込んだ。マグカップからの湯気は明るさで見えなくなってしまった。

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