第5話
もういないしどんなに望もうが2度と会うことはできないんだという現実に慣れるのにどのくらいかかるんだろうか。
母が認知症の兆しをみせだしたときも確かひどく悲しくなったことを覚えている。母が私のことが誰かわからなくなり、もう自分の知っている母には会えないのだなぁとひどく悲しくなって何度も泣いたような記憶がある。
でもいつの間にか認知症である母と向き合うようになっていた。自分の中にある母でないからといって母にイラついたりしてはだめだ。今目の前にいる母をきちんとそのまま受け入れなくては。そう考えるようになってから何やら母との関係に新しい何かが生まれたような気がする。
私のことを娘だとか思い出せなくてもいいから私がいれば安心と思ってもらえるような存在になれればいいなと思った。私がいれば心配ないと思ってもらえるような。もちろん簡単なことではなかったけれども、母は大人であってこれから社会に順応しなければいけないような子供ではないのだ。したがって母に対してあれはダメこれはダメと怒ったり制限したりすることは間違っているような気がした。何も心配しなくていい。たとえば食べてる途中にお茶碗を落として割ってしまったり、例えばお漏らしをしてしまったり、どうしようとオロオロする母に「まかしといて。何も心配しなくていいんだよ」といって怒るとか怒鳴るとかしないことを心がけた。なかなか難しいこともあったけれど怒鳴らないことは新しい信頼関係を築くのにすごく役に立ったと思う。母は私ことは誰だか全然覚えてないけれども「大好き」といってくれるようになったのだ。「あなたがいてくれるとすごく安心する」と言ってくれるようになったのだ。それはなかなか嬉しい信頼だった。
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