第12話 不可能な計画
決まった挨拶を手短に済ませ、Y氏は再会の理由を詳しく説明してくれた。
「自分も祭り好きで、地元では子供の頃からずっと出ているんです。で、打ち上げの時に誰かが「これが自分の地元の祭りの動画です」と見せてくれた中に、中心になって映っていらっしゃったから
「この人! この人知っているんだ! 」って言ったら調べてくれたんですよ。ぜひお会いしたい一人でしたから」
短期間であれ、若い頃一緒に仕事をした仲間だったので、話は尽きなかった。そして同じように天候が悪くなり、それと同時に、彼はまるで、外で雨に打たれているように沈黙した。
「実は・・・・・ちょっと面倒なことがありましてね、聞いていただけますか? 」
夫婦は予想と覚悟をした。
「家の会社は初代が祖父、二代目が父、三代目が兄で私が四代目になります。兄がすぐに体調を崩してしまって、私が継いだのですが、私の後は兄の子に引き継いでもらおうと思っていました・・・いますかな。
甥は優秀な大学を出て、院で環境学の研究を続けたかった様ですが、ちょうど例のプロジェクトの話しが急に持ち上がってきたんです」
「ああ、あれね・・・」
夫の言葉に、妻もため息交じりに頷いた。
数年前から計画され、半年前急に無期延期となった
「日本環境再生プロジェクト」
良いことではあるが、ある種不可能と思われる、賛否両論の国の計画だった。
「まあ、お二人は気付いておられるでしょうけれど、もうこの国は道路の整備も終わり、目に見えるところは開発しきっているんです。でも何かを作らなければ建築会社、我が社もその関係ですから、生き残ってはいけないわけです。ですから・・・・・」
「自然を意味なく破壊した場所を、開発前の形に出来るだけ戻すと言う事だったな。何十年前に木を倒した所は、今度は同じ種類の大木を植える、自然保護と言えばそうかな」
「お二人は否定的で? 」
「否定的ではありませんよ。自然を元に戻すのは良いことだと思います。ただ二人で何より驚いたのは、この国がそんなことをするのかと思って。環境後進国なのに」
「そうなんですよ、我々の業界も騒然としたんです。「本気か? 」
って。でも国は本格的に進めているし、甥っ子は教授から
「君の親御さんの会社で、先陣を切ってやってくれないか」とまで言われて、結局社会に出たんです。私同様、しばらく別会社に就職してもらいました、広くノウハウを知ってもらうためです。その間も頼み込んで、いろんな会社から資料を集めて計画を練っていたんですが、初めての事なので、会社間の調整が上手くいかない。本人もひどく悩んで落ち込んでいた、そんな時でした。
ある日急に元気になったんです。まあ、私としてはうれしいことだったので見守っていたんですが、どうも彼女が出来たらしいと噂で聞きました。それまで「忙しくてそれどころじゃ無い」と言ってピリピリしていたので、私も身内として安心したんです。
ですが・・・・・敵というのは・・・・・近くにいるもので・・・」
「まさか、横恋慕? 」
「そうなのです。遠縁にあたる、まあ、典型的な遊び人です。
彼女は全然その気が無いのに、諦める気配が全く無い。とうとう腹いせに、あの子の仕事を邪魔するようになってしまって・・・・・彼女は責任を感じたんでしょうね。「このままではあなたに迷惑がかかりますから」という内容の手紙を残して去ってしまったんです。で、そのあと」
「プロジェクトの休止・・・」
「ええ。甥も「何のために生きてきたかわからない」と言うんです。院を諦め、この仕事のためにほとんどの時間を使い、自然を戻した後のシュミュレーションまで作ったのに。この計画でひどい挫折を味わった人間が何人もいます。人生に挫折はつきものでしょうが。甥の場合は彼女まで失ってしまって」
「今は甥御さんはどうなさっていますか? 」
「一応普通に仕事が出来るまでに回復しました。実は私、ちょっとでまかせっぽいけど、言ったんです。「小規模の自然回復ならうちでも出来る。土地を買ってやってもいいじゃないか」って。そうしたら
「おじさん、そうします。何年かかるかわからないけど。きっとそうしていれば彼女も帰ってきてくれるでしょう」って今は前向きですよ」
「一安心だな」
「ええ」
「何だかあの子も一皮も二皮もむけて、しつこく彼女につきまとっていた男に言ったそうです。「お前のせいだとはもう言わない。もし本当に俺以上に彼女が好きなら、全国をしらみつぶしに探すんだな」って」
「大物ですね」
「まあ、雨降って地固まるかな。ああ、外の雨も止みましたね。そろそろおいとまします」と腰を上げた。そして別れ際に
「彼女は色白の美人だったらしいんですよ。遊び回っている男が「あんな女は見たことが無い、これから先も会うことはできない」と言うくらいですから」
「で、捜しているんですか? 」
「ネットで、らしいですが」
「誠意のかけらも無い」
「ハハハ、もし見かけたら教えて下さい、甥のためにも。それではまた」
雨は上がり、彼は明るい表情で家を後にした。
残された二人は気分が晴れようはずも無かったが、一つの想像が確実についた。
「三人目はあいつかな」
数日後、その彼から会いたいと連絡があった。
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