第13話  三人目の来訪者

 女友達同様、中学、高校と一緒だったH君とは、何年かに一度は会っていた。大学に入学し、院に進み、地元の一流企業の研究員になった。

車で二十分くらいの所に住んでいるのだが、類は友を呼ぶで、休日はお互い趣味に忙しくしていた。

「あいつ、どうやって来るかな、賭けようか? 」

「ウーン、自転車かしら。この前会った時、膝を痛めたと言っていたから、もう走っては来ないでしょう」

「俺はバスと思うな、この路線は乗ったことが無いだろうから」

「さすが友達! 」

天気も良いので、ポストに行くこともしなかった。すると時間通りに彼がバスでやって来て、楽しく話しを始めた。夫妻は同窓会には出席しない方だったか、彼はほぼ皆勤賞、穏やかな感じの社交性は、誰からも気分良く受け入れられていた。そしてその時の話を聞くのは、やはり面白いことだった。

「昔話に花を咲かせるなんて、俺たちも年を取った証拠だな」

「間違いなく。でもこの路線おもしろいな、こんなとこあるんだって思った。定年したら路線バスの旅をしようかな、近所でも知らないところだらけだから」

「H君、この辺りの山あいに有名なしだれ梅があるの、知っている? 」

「それは知っている、どっかの省庁のカレンダーになったっていう」

「さすが情報通だな」

「一度走って行ったよ、あれで膝を痛めたかなあ」

「あの坂を? 無理するなあ」

という話しで笑いながらも、不自然な沈黙が起こった。妻の方はそれを受け入れるかのように、

「お茶以外の飲み物でも? 」

「俺はコーヒー、お前は? 」

「お願いします」

台所では、コーヒーメーカーからの、ポコポコと言う音、終わり際のジュワ、ズーという美しいとは思えない音、そしてほとんど音がしなくなった。

「まるでこれからの話しのよう」と妻は小さく呟いた。


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