第11話 二人目の来訪者

「突然すいません、Y興産のYと申しますが。奥様覚えていらっしゃいますか? 大阪にいた頃にお会いして」

「え、ええ! もちろん覚えていますよ!! ああ、やっぱりその会社の社長さん・・・になられたんですね。大阪を離れて、随分たってから気が付いたんですよ」

 結婚したての若い頃、夫がしばらく勤めていた会社で、「彼は切れ者」と言う元同僚だった。大阪に住んでいた頃は、家に一緒に恋人と遊びに来たりしていたほど、会社でもプライベートでも仲良くしていた。Y氏の名字はとても珍しいので、妻は覚えていたのだ。そしてインターネットが普及して試しに昔の会社を検索してみたところ、関連会社でY興産という会社があることに気が付いた。

「そういえばYさん、何か育ちも良さげだったなあ」

「武者修行に出されていたのかしら。私達は大阪出身じゃ無いからわからなかったけれど、他の人は知っていたかもね」

夫人の頭の中では、その記憶がパッと浮かんだ。


「お二人ともお元気にされていましたか? 」

「はい、ありがとうございます」

「実は、本当に人と人との繋がりって面白いもので、ある人からご主人の事を聞きましてね。今度そちらに行く用事があるので、久しぶりにお会いしたいなと思いまして」

「そうですか、主人も喜びます」

夫人は忙しいであろう先方に日取りを合わせ、帰ってきた夫にも話しをした。すると

「また? 」と夫が言うので、どこか新婚時代にタイムスリップしたような気分だった夫人は、一気に現実に引き戻された。

「何か関連があるって事? あの彼女に? 」

「まあ、わからんが」

立て続けの遠方からの来客とは、確かに珍しい事であった。

 そしてその日も、天候までまるで同じ、昼過ぎには大雨になるとの予報だった。梅雨の時期ではあるから不思議では無いのだが、妻の方は同じように彼の家に郵便を取りに行った帰り道、シューズでは無い、堅い感じの靴音に振り返った。

「Yさん、どうしてこの道から・・・・」

しかしながら女性の特質とでも言うのか、

「Yさんでいらっしゃいますか? 」

「ああ! お久しぶりです」

全く同じように家に案内した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る