第10話 タスの湯殿にて
段々とタスの湯殿に近づいてきたら道くんや案内看板くんに声をかけられる。
『ハル、昨日ぶりだな、また来たのかぁ』
と看板くん。
『この偉大なる
と道くん。
道は大きな街道だけじゃなくて、みんなが
まあ、そこが生命なき者との会話での面白い部分でもあるんだけどね。
そして遂に到着したよ。タスの湯殿の壱番宿【
勝手知ったる僕は馬車を宿の中に乗り入れる。そのまま走ってくる番頭さんに、手で来なくて良いよって伝える。番頭さんのバンさんは僕の顔を見てニコニコになり、頭を下げて中に戻っていったよ。
多分、女将さんを呼んできてくれると思う。
「ハ、ハル、勝手に馬車ごと中にズカズカと入ってしまってるけど怒られませんか?」
メイビー嬢が小窓から顔を出してそう聞いてきたけど、僕は
「大丈夫ですよ、メイビー様。この宿では僕は特別扱いしてもらえるんです。まあ、師匠とマリーナ姉さんのお陰なんですけどね……」
と返事をして安心してもらったよ。そうして僕は普段から使用させて貰っている
この離れには、ちゃんと馬車停まりも
「さあ、着きましたよ。コチラの離れをお二人で使用して下さいね。僕はこの隣の小屋に居りますから、安心して下さい」
僕が二人にそう言って馬車から降りるエスコートをしていたら
「ハルちゃん、やっと来てくれたのね。それで、師匠は? 今日は来てないの? ボディソープとシャンプーとコンディショナーの在庫が乏しいんだけど、マリーナさんが忙しいらしくてまだ入荷出来てないのよ。もしかしてハルちゃん、持ってない?」
女将のまくし立てる早口攻撃にメイビー嬢とマリアさんが唖然としているよ。僕は苦笑いしながら女将に声をかけた。
「お久しぶりです、ネーメさん。師匠は僕が独り立ちする時期だと旅立ちました。それと、
僕の言葉にホッとした顔をする女将と若女将。そして、若女将が僕に言う。
「いらっしゃい、ハルさん。十二歳になったのね、おめでとう。それで、コチラのお二人は?」
聞かれた僕は少し大袈裟に吹いておいた。
「コチラのお二人はマリーナ姉さんの大切なお客様なんだ、ネルさん。今日はお二人にこの離れを利用して貰うよ。僕はコチラの小屋に泊まるからね」
「まあ、そうなんですか、マリーナさんのお客様。分かりました。お二人ともようこそ湯遊屋へお越し下さいました。コチラの離れには温泉を引いておりますのでごゆるりとお
ネーメさんの言葉にメイビー嬢もマリアさんもアタフタとしながらもお世話になりますと返事をしていたよ。
「ハルさん、お食事はハルさんの分はどうするの?」
ネルさんが僕にそう聞いてきた。すかさずメイビー嬢が答えた。
「あの、私たちと一緒にお願いしますわ」
「はい、畏まりました」
ネルさんがそう返事をして、僕に向けて
「それじゃ、ハルさん。お二人にご説明をお願いしてもいいかしら?」
そう聞いてきたから僕は任せてと答えておいたよ。それを聞いて女将と若女将は本館に戻って行った。僕はメイビー嬢とマリアさんの二人に離れに入るように促したよ。
「さあ、中を案内します。こちらが入口です。ここで履物を脱いで下さいね。ここは履物厳禁ですから。こちらの箱に履物を入れて下さい」
前世でいう玄関にあたる場所でそう説明をする僕。二人とも僕の言う通りに履物を脱いで下駄箱代わりの箱に入れたよ。
「履物を脱いでしまうんですのね」
「うっ、何かそれだけで無防備になった気が……」
まあ王国では普通、風呂と寝るとき以外は靴などを履いたままだからね。マリアさんの言い分も分かるけど。
「ここでは敵襲を気にする必要はありませんからね、マリアさん」
僕はマリアさんに安心するように言っておいたよ。
早速中を案内する。
「こちらの部屋はお二人が寛ぐ部屋です。寝室がこの奥にあります。ベッド仕様です。ただ、この部屋で布団を敷いて寝るのも良いかと思いますよ。敷布団は夜営で使用したマットレスですから快眠は保証します。こちらの引き戸を開けるとマットレスと掛け布団などが入ってます。それから隣の部屋がダイニングになります。食事はこちらで行います。夕方、十八の時に食事の用意がされます。朝は七の時〜九の時になります。昼は朝の食事の時に頼めば作ってくれますが、良かったら外で食べましょう。美味しいお店があるんです。それからこちらに着いてきてください。ここが脱衣所でこの奥が浴室となります。外からは絶対に覗かれませんし、脱衣所の鍵をかければ誰も侵入できませんから安心して入って下さいね。天然かけ流しの温泉のお湯です。肌はスベスベツルツルになりますよ。中にあるあの白い容器は洗髪剤です。黒い容器は身体用です。赤い容器は整髪剤になります。使用方法はこちらに書いてありますから読んで使用して下さいね」
とまあ説明をしながら案内をしていたら、
「お疲れ様です、ようこそ湯遊屋へ。お茶と簡単なお茶請けをお持ちしました。ごゆっくりお寛ぎ下さいませ」
そう言って仲居さんが急須とお湯ポット、それから和菓子を置いて出ていった。二人とも初めて見るから使い方が分からないようだったから、僕がマリアさんに説明しながらお茶を入れて上げたよ。
「変わったお茶なんですね」
そうか、王国だとお茶といったら紅茶とウーロン茶しかないからね。コレは師匠がこの宿限定に広めた緑茶なんだ。今はテリス帝国でも飲まれてるようだけどね。
そう言えば何で師匠が緑茶を知ってるのか不思議だったけど、日本人だったなら知ってても不思議じゃないね。謎が一つとけたよ。でも師匠もシャンプーやボディソープは知ってる筈なのにどうして作らなかったんだろう? マリーナ姉さんに会ったら聞いてみよう。
お茶とお茶請けを少しつまんで二人ともお疲れだったから、少し仮眠をとるみたいだ。僕は二人に夕方に起こしに来ますと言って小屋に移動した。
小屋で泊まる準備をしていたら若女将が若い衆を連れてやって来たよ。
「ハルさん、こちらに商品をお願いします」
若女将が言うとおりにボディソープとシャンプーとコンディショナーを出した。
「良かったわ。コレで半年はもつわ」
この世界は一年が三百六十日なんだ。一ヶ月三十日だね。
若女将は代金を僕に支払ってマリーナ姉さんに会ったらよろしくお願いしますと言って若い衆を引き連れて小屋を出ていったよ。
さて、僕も小屋に備え付けの温泉に入って少し休もう。
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