第24話
「...何も起きないな」
ループ世界は崩れない。壊れた家屋はそのままで穿たれたアスファルトの地面も沈下したままだ。この手の空間を作り出す技は大抵術師の意識を刈り取ればその存在を保てなくなり崩れ去る筈だが。
(...別超能力者がこの空間を作り出したのか?)
となれば勘解由小路が危険だ。自由にこの空間を操れるのであれば潜む、もしくはこの空間を使って殺しにかかるかもしれない。居場所は気配を察知している為直ぐにわかる。
気絶した襲撃者の胸ぐらを掴んで勘解由小路の下に跳躍する。百m近くある距離を助走も無しで跳べる跳躍力に驚きを隠せない。
「お、終わったのかい?」
瓦礫の影からひょっこりと怯えながら勘解由小路が姿を表した。
「ええ、コイツ一人は倒しましたが元いた場所には戻っていません。この空間を形成するもう一人がいる筈なのでかなり危険です。今度は俺のそばで隠れていてください」
「なるほど...」
掴んでいた男を地面へ置いた瞬間、異変が起きた。
世界が歪んだ。捻れ、崩れ泥のようなぬかるみへと変わる。色彩は薄汚れていき、全てを混ぜでぐちゃぐちゃになった汚らしい茶色。空は落ち、茜色の泥が雨のように降り注ぐ。
「捕まって!」
勘解由小路を胸元に寄せて抱き締める。直ぐに防御結界を発動させて汚らしい雨を凌ぐ。一方捨てたままの襲撃者は沈み、泥沼に沈んでいくのみ。
雨が降りしきったあと、そこは現実の元いた世界になっていた。
「...お前がこの空間を作った術者か」
遠く離れた家屋の上、先ほど倒した襲撃者の襟首が掴まれていた。同じ白のローブを着た男らしき人物は言葉を交わすこともなく、直ぐにその場を去っていった。
「...あ、その。そろそろ離してくれると助かるのだが...」
「っあ!す、すいません!先輩に失礼なことを!」
その男を目で追うのに夢中になっていて、顔を真っ赤にしたまま抱かれた勘解由小路の存在を完全に忘れていた。意識してしまうと此方もすっかり気恥ずかしくなり、此方も頬を染めてしまう。柔らかな女体をガッチリとホールドしていたので腕に感覚が残っていたのを思い出して思考が止まってしまいそうになる。
前世から今日まで全く女性経験のない人生だったので免疫がまるでない。ちょっとした気色悪さを醸し出してしまってる。
「こ、今回のハグは正当なハグだ...僕は一切気にしていない...からその、この事はお互いに忘れよう」
「ええ、そうしましょう...」
「しかし、逃してしまったね。解決の糸口になる襲撃者君たちを」
直ぐにでもこの話題を変えたいようで先程の戦闘の話に戻していく。
「恐らく空間を創り出した術者が退路確保の担当だったんですよ。空間に取り込み、他者には見えなくする。そして万が一自分達の勢力が負けた場合は遠く離れた場所から仲間を連れ戻して逃げに徹する」
あのまま追いかけた所で様々な手を使い逃げ果せるだろうとブレイブは語る。
「だから追わなかったのかい?」
「その通りです。トラップなどで先輩に危険が及んでも危ないと考えてますので、ここは此方が引くのが賢明ですね」
(とはいえ毎回同じ手を使って襲撃をするなら何か策を練らないとイタチごっこになるな...)
此方の手の内を見せてしまったので次からは更に入念な手で退路確保と戦力の増強を図るだろう。高等な技術である空間の超能力者に対抗する策がなければ一生逃げられて終わりだ。
「さて、我々も帰ろうとしよう。僕はもう疲れてしまったよ」
「そうですね、帰りましょう。ただ、その前に一つ提案があるのですが。よろしいでしょうか?」
最強勇者の転生事情-現代日本で生まれ変わった勇者様は無双レベルの強さだそうですよ- @suika25
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。最強勇者の転生事情-現代日本で生まれ変わった勇者様は無双レベルの強さだそうですよ-の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます