第23話
一瞬の静寂の後、襲撃者は文字通り光の速さで接近してきた。
「ッ!」
この速度による突進が直撃すれば勘解由小路は醜い肉塊に早変わりだ。咄嗟の判断で割って入り、刀身を盾代わりに攻撃を受け止める。
「先輩!少し距離を取って隠れてください!」
「わ、わかった!」
防護術式を掛け、この場から離脱させる。遠くまで逃げて欲しいが、この襲撃者相手にはそれが悪手だ。ブレイブの手の届かない範囲に行った瞬間に光速で始末しにかかるだろう。だからといって近すぎては戦いの余波でお陀仏だ。適切な距離を取って対処しなければならない。
(コイツ一人とは限らないしな...!)
謎の異空間に閉じ込められているが、この空間の仕様は不明。任意の人間を閉じ込められるが外部からの侵入は容易い可能性がある。離れ離れになり、陽動で気を引いている内に勘解由小路の殺害が行われる可能性も考慮しなければならない。
(っく!俺一人なら何とかなるんだが!)
力尽くで襲撃者を吹き飛ばし、距離を無理矢理取らせる。だが、それは無意味。圧倒的な速度を誇る彼に取っては間合いの範疇。
襲撃者は勘解由小路一点狙いで弱者から殺す算段だったが。
「予定変更だ」
声での認識を阻害したノイズのかかった言葉を発し、ターゲットをブレイブに向けた。想定以上の実力者と認識を改めてた。ブレイブが護衛している状況下では殺害が困難だと判断。
「貴様から殺す」
「やってみろよ!」
ゆっくりと人差し指で標的を指差し、力を解き放てばその指先から光線が射出された。真っ直ぐに心臓を狙って撃たれたエネルギー体に迷いなく剣を振い、別方向へと捻じ曲げる。
そこから先は一切の容赦はなかった。気持ち悪いほどにぬるぬると動く五指を両手を駆使して十の光線を絶え間なく撃ち続ける。
「死ね...死ね...死ね...」
第一のターゲットとしてブレイブを狙いながらも隙を見せた瞬間に隠れている勘解由小路を狙う。異空間とは言えこの空間は一般的な住宅街を模したモノ。隠れ蓑にしている塀や家屋など容易く撃ち抜いて崩壊を起こす。
「させねぇぇ!」
故に、勘解由小路が狙われた場合は自身へのダメージを省みず放たれた光線を弾きに突っ走る。
アスファルトの地面は穿たれて崩壊寸前、作られた街並みは光線に焼かれ、延焼する地獄の風景へと様変わりしていた。
だが、おかしい。違和感がある。粉塵を巻き上げ、崩れた木片や鉄筋に火の粉が降り注ぎ光線を何度もその身で浴びた筈だ。
それでも男は煙の奥で一糸乱れることなく、弾き続ける。疲れすら見えない、というよりかその動きは段々と洗練とされていく。先程まで確かにあった隙はもはや無く。着弾点を予測され、的確にこちらに撃ち返してきている。
「何故だ...そんな筈は!」
狼狽えたその一瞬をブレイブは見逃さない、光線を弾き返して襲撃者の頬を掠めた。
「ようやく鈍っていた身体が思考に追いついてきたんだよ。もうちょっと微調整が必要があるみたいだけどな」
煙の先に立っている男は無傷。分厚い鉄板も容易く光線は全くの無意味であった。ブレイブは只、戦いの感を取り戻していただけだ。この世界に来て早15年。戦いの世界とは無縁でいたが故に多少なりとも鈍っていた。
光の速さ程度の視認も難しく、剣術の腕も落ちた彼は襲撃者を直ぐに仕留めることは叶わなかった。
奥の手でもあれば一瞬で勘解由小路を仕留められると考え、襲撃者の焦りが出るまで粘り続けた。只ひたすらに攻撃に耐え、戦いの感を取り戻しながら逆転の一手を狙っていた。
そして、次第にその異常なまでのタフネスに焦りを覚え始めた襲撃者を見て確信をした。これ以上の手は無いと。ならば、ヤツ一人を屠れば勘解由小路の安全性は保たれ、この一戦は終わる。
「っ!な、舐めているのか!!」
焦燥感に駆られた襲撃者は全指をブレイブに向け、超高速で光弾を放つ。線では無く、玉。線よりも物量を放てる形態にチェンジさせて周囲が爆ぜる程にめちゃくちゃに撃ち続けた。
「っくっく!やったか!」
「誰をだ」
背後に立っていた。煙幕が晴れた先には誰もいない。クレーターのように穴の空いた地面があるだけだ。
「これで終わりだ!」
襲撃者の頭を片手で掴み、地面へと思いっきり叩きつけた。大地には亀裂が入り、打ち付けられた相手の意識を刈り取った。戦いは決した。圧倒的な力量差でブレイブが勝利を収めたのであった。
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