第22話

 割れた夕暮れの帰り道。アスファルトで塗り固められた道路の中央、道を遮るように立つのは白い狼の面をした人間。全身は白い布地のローブに身を包んでいるが浮き上がっている骨格からしてそこまで筋肉質の人間ではないだろう。中肉中背といったところか、武器を隠し持っている様子もなく第一印象としては不思議な敵対者に感じられた。


(素手...徒手格闘か?それにしては肉体が貧弱過ぎる。気取られないように武器を隠していたとしても満足に扱えるとも思えない...超能力者か?)


 飲み込まれてしまった異空間。魔法による術ならば事前に察知してブレイブは回避する事ができた。しかし、今回は全く気がつく事なくループする夕暮れの道路に囚われていた。


 たしかに油断も隙もあった。だからといって魔力に気がつかないブレイブではない。ならば結論付けるなら超能力者による仕業。魔法とは異なる論理で力を扱う連中ならばブレイブの隙をついて術中に嵌める事ができるだろう。現にその力によって閉じ込められている。そして何も武器となる装備無しに平然と現れた襲撃者。奇襲をかけられるアドバンテージを消して空間の破壊を恐れた人間だ。魔法使いであるのならそれ相応の武器を用意して現れる。第二、第三の搦手を用意したとしてもそれを察知されない為のブラフが必要だ。無手ではあからさま過ぎて怪しい。


 筋骨隆々とした人物がそれをやってくればまあ、納得できるわけだが。どれも当てはまらない。ならば、ブレイブと勘解由小路が狙われているという状況を踏まえれば超能力者の線が浮上してくる。


 恐らく誘拐事件絡みだろう。その事件は結局未解決のまま目撃情報を求むとして終わってしまっている。超能力者を誘拐したのであれば、それらを実行したのもまた超能力者。事件以降も足がつかぬようにと徹底しているご様子だ。


(諦めずに事件を調べ続ける勘解由小路先輩を張っていたか?)


 尊敬していた先輩を失い、世間の興味も次第に薄れて忘れられていく事件を追い求めた人間、勘解由小路。今や探しているのは親族と彼女くらいだろう。恐らく親族側にも張り込みをしているだろうが其方を襲うことは無いと断言できる。


 誘拐犯が危惧しているのは事件を追う者が超常の力を持った人間と結託する事。只、追い続ける力無き人間は真相を暴けずに終わる。


 しかし、同等の力を持った人間がいればその限りでは無い。特殊な力を使って白日の元に晒される、それを恐れているのだ。故に、勘解由小路と手を組んだブレイブは狙われた。奴らの狙いは殺害が誘拐か不明だが、碌な結果にはならない。


 剣を構えて臨戦体勢を取る。


(好機と考えるべきだ。誘拐された先輩の居所がわかるかもしれない)


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