第20話

 何度も何度も悪戯を繰り返す霊体は家の周辺に出ると聞き、直ぐに下校の準備をはじめる。善は急げ、御伽林の悩みを断ち切る為に素早く身支度を整えていると勘解由小路が話しかけてきた。


「話を聞いていた限り、死者は現世において実体がないようだがどう解決するんだい」


 一連の話を聞く限りではブレイブは霊体に対する有効打を持っていないと思われても仕方ない。何せブレイブには眼すら持っていない。前世で見た霊を倒したようだがそれは実体を得ていた。だが心配など二の次だ。


「干渉できない霊体を斬り払う程度の技なら俺は使えます。余程強力な念に囚われていなければ容易く終わりますよ」


 魂のみになっても現世に留まろうとする怨念共は決まって受肉した肉体を捨て、祓いに来た人間が逃げようとする。それらを追撃する為の剣技をブレイブは修得していた。



「なるほど、それなら安心できそうだ。御伽林君の為にも早く幽霊退治をしなければね」


「但し、俺には眼がないので御伽林さんの協力が必要ですがね。少々怖いかもしれないけど、その魔眼で俺に指示を送ってくれるか?」


 御伽林は力強く頷いた。


「...わかった!頑張ってみるよ」


 了承を受け取り、超常現象研究部一行は学校を発って電車に揺られること数分。山梨市駅へ辿り着きそこから更に歩く、というよりか走る。


「いやー、本当に凄いねぇ。自転車と並走して呼吸一つ見出さないんだからさ」


「それなりに鍛えていますので!」


「それなりだとそうはならないんじゃないかな?」


 急遽として幽霊退治となったので当然駅を降りた先の交通手段など持ち合わせていなかった。ブレイブは問題ないが勘解由小路は根っからのインドア派で体力も身体能力もない。ノロノロと向かうのもどうかと思ったブレイブは勘解由小路を担いで走って向かう選択をしたのだ。


 駅から自転車で7、8分。曲がり角の手前で御伽林が静止をかけた。


「あそこ。あの赤い屋根が私の家。...うん。今日も同じ魂が待ち伏せしてる」


「場所は?」


「ちょっと待って。確認するから」


 目的地には辿り着いた。後は根付いた魂を斬り払うだけ。知識のない御伽林は慎重に角から顔を覗かせて相手の正確な位置を測る。干渉できる霊体は自分が想像しているよりも危険なのかもしれない。絶対にミスをしないように目視、魂は玄関の表札の前を漂っている事が確認できた。


「表紙の前。そこをフワフワ浮いてる...大丈夫そう?」


「問題ない。一撃で仕留める」


 ブレイブは両手を合わせると強く魔力を送り始めた。ビリビリと黄色い稲妻が両手から発生し、この世の理とは思えない現象を二人は目撃した。


「製剣!」


 右の指で握り、左の掌から閃光が引き抜かれた。風を切り、雷が霧散。抜かれた閃光が収まる頃には右手は銀色の刀身をした剣が握りしめられていた。


「け、剣が出た!?」


 マジックでも見ている気分だ。掌から剣を出すなんて大道芸みたいなものだ。だが、それは決してこの世界の娯楽の技ではない事は眼前で見ていた二人は理解している。目の前で抜かれた剣の余波で魔力が飛ばされた。弱い波動ではあるがそれは人生で一度たりとも受けた事のない不思議な感覚だった。体から受けて魂にまで波打つ摩訶不思議の振動。そして顕在化したこの空間での重圧感。御伽林にも魔法は実在すると脳に刻みつけられた。


(...まさか剣を作り出すとはね。想像以上の逸材だ。彼の手を借りれば先輩に辿り着けるかもしれない)


 剣を携えたブレイブは跳躍し、向かいの塀を蹴って瞬く間に表札の前に辿り着き一閃。


「現世から去れ!」


 斬!と紫のオーラを纏った刀身が見えない何かを引き裂いた。ブレイブには確かに肉のような物質を斬った感触が残っていた。


 御伽林には自分を困らせていた魂が一刀両断される光景が映り、勘解由小路は何も見えていなかった。

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