第17話

 転生の事情はブレイブにとって隠し事ではなかった。以前いた世界では転生は大っぴらにしている人間が大半だ。


 そもそも使える人口が少ないのでそう多く起こり得るケースではないが一般の魔法として認知はされ理解もされていた。


 ただ、この世界ではそれが常識として植えついていないのでブレイブから話すことは基本的になかった。今回それを話したのは信頼を得る為と超能力者ではないと誤解を解く為だ。


「軽く実践して見せますよ」


 魔力を練って生前得意だった魔法を再現してみせる。力強く念じれば瞬く間にブレイブを囲うようにして光の剣が創られた。


 聖剣を手に取って戦っていたブレイブは魔法による剣の生成を行い、遠距離の敵も斬って見せた。それがこの光剣だ。16の刃は自由自在に操る事ができる。バックからノートの切れ端を投げ捨ててそれらを細切れにして実践を完了させた。再び念じれば光の剣はボロボロと灰のように崩れていき消え去った。


「す、凄い!これが魔法!先輩の見せてくれた超能力とはまた違うな」


 勘解由小路はすっかり魔法の虜になっていた。超常現象研究部なんて胡散臭い部活に属しているような人間だ。魔法を実践して見せれば疑う事なく直ぐに信じてくれると確信していた。


「信じていただけたようで何よりです。俺も先輩の話を信じますよ。超能力者というのはわかりませんが話を聞いた以上、手助けする所存です」


 やれやれと肩をすくめながら勘解由小路は机に置かれたペットボトルの水を口にする。


「本気で言ってるのかい?正直言って僕の言い分は結構無理があったと思うけど。君は魔法使いとして証明してくれたけど僕には超能力者を証明する手立てがない。それでも協力してくれるって言うなら歓迎させてもらうよ」


 自分の言い分に少し無茶がある事を理解した上でゴリ押してきたらしい。それだけ必死なのだろう。どんなに僅かな可能性でも、0.1%でも失踪した先輩に繋がる糸口があるのなら勘解由小路は真っ先に飛びついてしまう。もしも本当にブレイブが超能力者で悪人だったらどんな危険な間に合うかも理解している。それでも危険を顧みずに突き進むほど大切な人なんだろう。伊達に前世で25年生きてきた訳じゃない。彼女を見ればわかるのだ、本気で心配をしている心も。救ってみせるという気概も。元の話の真偽がつかなくとも、彼女のその気持ちに嘘偽りはない。


 ならな、勇者として一人の人間として手を差し伸べるのは当たり前なのだ。


「協力しますよ。それに危険な超能力者がいるのなら只の人間である勘解由小路先輩だけでは心配です。俺が必ず守って、攫われた先輩も救って見せますよ」


 勘解由小路の手を掴み、熱弁すると気恥ずかしいのか顔を晒して頬を掻く。


「お、おお。ありがとう...そう面と向かって言われると恥ずかしいな...む?」


 そんなやりとりをしていると何者かに部室の扉が開けられて見知った顔の少女が現れた。


「えっと...体験入部に来たんですけど...取り込み中ですか?」


 御伽林逢真だ。ブレイブは慌てて手を離すしてそれを否定する。


「いやいやいや!そういうのじゃないから!ですよね!先輩!」


「あ、ああ!そうだとも!ちょっとしたいざこざがあっただけと言うか!」


 その瞬間の部室はなんとも言えない気まずい雰囲気が流れていた。

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