第16話
「失踪...ですか?」
家出とかそんな軽いような出来事ではなかったのだろう。彼女から発せられる陰鬱な空気感から読み取れる。
「そうさ、当日まではいつも通り過ごしていた。消える気配なんてものは無かった、それに下校中にいなくなった。その日の先輩は財布を忘れていた。もし自分からいなくなるのなら一度帰るはずだし、何より今の今まで見つかっていないんだ」
それを聞いてなんとなく昔のニュースで聞いたことがある気がした。下校から少女が帰らずに誘拐されたと全国区で話題になった。実際には争った形跡などは一切なく、彼女が使っていた物も何一つ見つからなかった。だが余りにも痕跡が無く、その不自然さが事件による物だと断定されて警察の捜査が行われた。警察の考えでは少女は家出をする際にSNS等を使い、宿泊先を求めた結果として家主に監禁されている可能性があると示唆した。結局、聞き込み調査も目撃情報もなく二年が経過してしまった。
「...なるほど」
「まあ、もう察していると思うけど。君、超能力者でしょ?先輩の同族なら何かしら知っていると思って誘ったんだよね」
ここまで話したら、と勢いで核心をついてきた。勘解由小路先輩は失踪した先輩の行方を追う為に同族と思われるブレイブに接触してきた。超常現象研究部は思ったよりもきな臭いらしい。
超能力者だった先輩に用があったのか、それともこの超常現象研究部の研究に当たる部分に誘拐犯にとって不都合な事があったのか。知る由はないが勘解由小路先輩の手助けはしたいと強く思った。
年端もいかぬ少女がなんらかの陰謀に巻き込まれて不幸な目に遭うのは許されざる行為だ。前世で勇者として人々を救ってきたブレイブだからこそ、誰よりも彼女に真剣に取り合おうとした。
勘解由小路先輩の言葉を信じるならば先ず誘拐で間違えないだろう。仮に家出の監禁ならば超能力者の少女なら抜け出すのは容易な筈だ。
そして不自然な程に痕跡がない。仮に超能力や魔法といった技術を独占している団体がいるのなら説明がつく。普通の人間では使えない荒技で証拠を消すことぐらい容易だろう。だが二年近くも前の事件だ。犯人の捜索は容易ではない。時間はかかるが協力する事を決めた。
「先に言っておくと俺は超能力者ではありませんよ」
「それは懐疑的だね。実は見ていたんだよね、君が赤髪の男の子を一撃で眠らせるとこ。普通じゃ一撃で沈められないし、運動部での活躍も目覚ましいね。超能力者の特徴として一つ、常人を圧倒的に超えた運動能力があるんだ。汗一つかかずにトレーニングをする君は正に超能力者じゃないかな」
(...見られていたのか)
校舎裏の一件からブレイブに目をつけていたようだ。それから先はよく観察しているようで超能力者としての証拠を次々と突きつけてきた。
「超能力者ではないですよ。俺はどちらかと言うと魔法使いですから」
魔法使いと伝えると「は?」と怪訝な顔で見られた。馬鹿にしているのかと今にも憤りそうな勘解由小路を抑えるように語っていく。
「荒唐無稽な話をしますが俺はこの世界の人間じゃありません。元々は別の世界にいた人間で日本に転生してきたんですよ」
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