第5話

 更に8年の時が過ぎた。15の4月。ブレイブは新たな門出の時が来た。ついに高校に入学する時がやってきたのだ。


「ほら、ネクタイをつけ忘れないで」


「わかってるよ母さん。ハンカチもティッシュもカバンに入ってる」


 完全にこの世界に馴染んだブレイブは学生として満喫している。何せ前世では戦いの連続であった。勉学を学ぶ事も出来ずに戦いに明け暮れて血で血を洗う毎日だった。


 だが、この世界はどうだ。平和そのものだ。国外に目を向ければ確かに飢饉や紛争と言った問題があるのは確かだ。それでも今いる場所に関しては圧倒的に前の世界よりも安全で腹一杯のご飯も食べれる。こんなに幸せな事はないと胸を張って言えるだろう。


「行ってきます!」


「いってらっしゃい」


 母である十六夜恵いざよいめぐみに元気よく挨拶をして玄関から飛び出して行った。


 彼が転生して生まれ育ったのは山梨県の笛吹市。少々田舎ではあるが前世の文明レベルと比較すればブレイブとしては文句なしに良い環境だと思っている。トイレは綺麗だし水も美味しい。前の世界ように水を飲んで腹を壊すなんてこともない。


 高校の名前は吹山高校。家から走って10分程度で着く近隣の高校に通うことにした。学力的には甲府の方にある高等学校にも通えるのだが、遠いところまで通うのがちょっとめんどくさいと思ってしまい最寄りを選んだのだ。


「よし!いくか!」


 高校の入学祝いに買ってもらった自転車に跨ってペダルを漕ぐ。高校までは下り坂なのでどんどん加速していって向かい風が気持ち良い。


 季節は春。燦々と晴れ渡る太陽に照らされながら気分良くはじめての通学路を下っていく。


 気がつけばあっという間に高校の近くにまで着き、周りは同じく通学中の学生ばかり。ブレザーに身を包んだ生徒たちを見ていると期待に胸が膨らんでいく。

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