第19話 合流


 と、言うわけで約束の時間になった。

柚月と菊璃の二人に憑いてきてもらうことになった。柚月だけじゃ不安だったので菊璃も一緒に憑いてきてもらった。

 目的地には十分早く到着した。五分後には友人の紀一ともう一人来ていた。


「わりぃ待たせたか?」

「いいや、ついさっき着いたから待ってない。そっちの人は?」

「初めまして。ボク『露石樹奈つゆいし じゅな』紀一の妹で、来いってしつこく言うから来たんだ。」


 一人称がボクなのは珍しいが、多様性の社会だ。そういう人もいる、と思う。

一昔前の人なら「女の子は一人称は私でしょうが」とか怒ってたんだろうか…後で柚月と菊璃に聞いてみるか。

 僕は紀一の妹、樹奈に自己紹介した。が、『紀一から聞いてるから名前はしってるよ』と言われた。樹奈は僕をまじまじと見てくる。

紀一のやつ、変なこと言ってたりしないよな?変なことしたことないから大丈夫だと思うが


「とりあえずこんな場所で立ち話すると人の邪魔になるだろうし、店に入ろうぜ。予約も取ってあるから」

「サンキュー。お前にしては気が利くなぁ」

「俺はいつも気が利きますぅー」


 僕たちが入った店は食べ放題のコースを選ぶタイプの焼き肉屋だ。

店の外からでも焼き肉のいい匂いが漂っている。この匂いで空腹になる。自然と口内で唾液が作られているのがわかる。憑いてきた二人も焼き肉の匂いにうっとりしている。…これ柚月我慢できるのか?


 店内は個室タイプなので、プライベートは守られている。個室と言ってもロールスクリーンと言われる上から下すカーテンみたいなもので仕切っているだけなので声は漏れるし丸聞こえだ。


「いらっしゃいませーご予約のお客様ですか?」

「三人で予約している露石です」

「露石様ですね。お待ちしておりました。お席の方案内させていただきます」

(旨そうな香りが空間一杯に広がっておるな…至福の空間だの)

(匂いが付いたらなかなか取れなさそうですが、ずっと匂っていたい香りですね)


 柚月と菊璃の二人も店内の焼き肉の匂いが気に入ったご様子で

二人は今日は食えないけどね?僕が逆の立場なら拷問されてる気分になるよ

どうにかして二人に食べさせられないか考えるが、なかなかいい案が出ない。

すると柚月から提案が


(友介よ、食う時で構わん、お主の身体を借りても良いか?)

(柚月様、友介様は今会話ができる状態ではございません)

(そうであったな。ならばこうしよう。手を合わせ、両手を握るのを合図で憑依するとしようかの。良いな友介?)


 なんだか勝手に話が進んでいる。憑依って…体が乗っ取られるってことだろう?面白そうなのだが、どうなってしまうんだ?


(友介様、柚月様がしようとしている憑依は、友介様の身体の中にある友介様の魂を外に出し、柚月様の魂を入れる、といったものです)

(心配せんでもちゃんと体は返すに決まっているであろう)


 それなら安心だ…とはならない。僕の中身が入れ替わる、つまり僕の身体の操作の権限を渡すことになる。変なことをしないか心配だ…特に柚月が

発言するのも恐らく柚月になるだろう…柚月の口調だと、間違いなく変だと思われる。菊璃なら怪しまれないように装えるだろうが、柚月は、なぁ…

 最悪菊璃に身体の中に無理やり戻る方法を聞けばいいだろうし

菊璃に、大丈夫だ、と念を送る。受け取ったのか菊璃が頷いた。


「いやー、今回凄かったんだぜ?大勝も大勝よ!」

「もお、紀一はいい加減懲りなよ、お金が勿体ないし」

「わーってるわーってる」


 分かってない人間の返事だ。大抵ああいう返事をするときは同じことをするんだ。ギャンブル自体に興味がない訳ではないが、今は親に金を出してもらって生活しているのだ、その金でギャンブルするのは気が引けるのだ。やるなら社会人になって、落ち着いたら、かな。

 それも遊びの範囲でだ。


「友介は今日呑む?」

「あー」


 斜め上を見るふりをして、柚月と菊璃にどうするのか振る。

柚月は激しく首を上下に振っている。菊璃は頷く。柚月は何というか食い意地が張ってるな。


「うん、呑むわ」

「おーけー」


 まぁ、実際は僕ではなく、神様二人が飲むんだけどさ。

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