第13話 無名の神様 其の弐


 僕は座布団を三人分用意して、座って名前の案を紙に書いていく。

単語だけでも出していこう、となったのだが、神様達は超が付くほどの達筆、筆の感覚で書いてるので、違和感を感じたのだ。

 その中でも座敷童の適応力は凄まじく、僕たちが普段使っている漢字にまで近づけている。僕でも読めるような文字になっている。

 神様の書いた文字が何と書かれているのか、なんと読むのかを教えてくれる。


「なかなか便利ですね、このペンというものは」

「なかなか不便だの…、このペンというものは」

「ははは…」


 同時にまったく違うことを言っていた。

座敷童はペンに慣れようといろいろな文字を書いていた。それに対して神様は文字を書くのに飽きたのか、はたまた書きにくくて嫌になったのか、落書きしだした。ぐるぐると蛇のような線を描いたり、花だったり草だったり、蝶だったり…

 その落書きの中に気になるものがあった。花弁の先が上に向かっている花弁の数も多く、真ん中に向かえば向かうほどカールを巻いているような花だ。

神様にこの花は何か、と聞いたら『菊』の花だ、と言っていた。


 花の方向で行けば『桜』だったり『椿』や『紫陽花』とかがあるな…『蓮』とか

なかなか、良いのが揃ってきたな…名前に花を使おう、と神様達に話してみた。


「花ですか…良いですね。名前に華もあっていいと思います」

「元より友介が決めてくれる名だ。良いも悪いもない」

「責任重大ですね… コレ…」


 二人の雰囲気にぴったりの花を使った名前を考える

紙に書かれた花の名前を見て、名前の候補を考えていくが、簡単に決まるものではない

 ここは一旦外に出てみよう。インスピレーションが湧くようなことだってあるだろう。狭い自室に籠っていたって、解決できないのなら気分転換は大事だ。

別に逃げる為ではない。凝り固まった思考は外に出て柔和にするに限る。やり方は人それぞれだけど、僕はこのやり方で気分転換をしている。


「一端休憩にしましょうか、座りっぱなしも体に悪いですから。外で何か買ってきますね。何か食べたいものありますか?」

「お気遣い有難うございます。私は大丈夫です」

「それならわたしは甘味を所望する。友介も呻るようなものを頼むぞ」


 座敷童と神様は性格がまったく真逆だ。座敷童はやれやれ、と呆れている。それと申し訳なさそうな表情をしている。苦労人の顔がそこにはあった

神様と座敷童に食べてもらう甘味を考える。コンビニで置いてある甘いものでもいいが、由緒あるお店の甘味もいいんじゃないか、と思う。

 最初はコンビニのでいいんじゃないか、という考えに至った。


「わかりました。今日は安手なものですが、僕がおいしいと思ったものを買ってきます。ちゃんと名前のことも考えますので」


そういって、僕は玄関のドアノブに手を掛けたところで、神様から声が掛かる


「あ、そうだ。わたしも付いていこう。 …安心せぃ。そんな顔せんでも考えておることは分かる。人に見られん方法ならある。友介に憑けば人に見られることもないから …あ、そうだ。お前も憑いてくるとよい。今の時代の風景がどうなっておるのか気になるだろう」

「お気遣い有難うございます。主様の仰せの通りに」


 あれ? おかしいな。勝手に話が進んでいくぞ?

座敷童も我慢してくれとでも言いたそうな顔をしている。何だろう、思ったより表情豊かなんだなぁ座敷童って …初対面の時に無表情だったから勝手に感情を表に出しにくい子なんだ、と思ってたけど、やっぱり初対面の時は奥手になるよなぁ

 ここで、僕が抗議しても無駄だろう、と思い「わかりました…」と渋々了承する。


 ここで僕はあることが気になった。憑かれると一体どんな感じがするのだろう、と。

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