第7話 禁術使い、魔力を◯◯される

「———それじゃあアレスもやってみるか?」

「う、うん……」


 アランが神術もどきを一瞬にして残滓すら残さず解除しながら訊いてきた。

 やはりあの杜撰な神術の割に、神力の操作は超一流で、不自然なほどにその差に違和感を覚える。


 もしかして何か条件があるのか?

 

 別に有り得ないことはない。

 特にあの性悪女のことだから、自分に刃向かえないように入念な手を打っているだろう。

 多分神術は自身の許可がないと使用できない、とかな。

 

 というか……コイツ、一体何がしたいんだ……?

 

 俺は疑問に思いながらも、一応子供じゃないことを悟られないために頷いておく。

 此処で断る子供なんて存在しないだろうし、わざわざ疑われる様な行動をする必要もない。

 

「おおーー! じゃあ早速やってみるか!」


 アランは少しテンションを上げてそういうと、俺の手を取った。

 俺はそんな意味不明な行動に思わず首を傾げる。


「……パパ?」

「ん? 何で手を繋いだのか気になるのか? それはな、アレスの神術を発動させるのを手伝うためだよ」


 俺はそこまで言われて納得する。


 確かに、魔術でも、魔力をまだ操作できない者は魔力操作が長けているものに手伝ってもらう。

 そうすると自然と魔力を感知でき、魔力操作しやすくなるのだ。


 前世では皆天才だったせいでそんなこと一度もしていなかったのですっかり忘れていた。


『……ご主人様が1番の天才のくせに』

『否定はしない。禁術を十全に使えるのは俺だけだからな』


 他の弟子や仲間には必ず向き不向きがあったのだが、何故か俺にだけはそんなものはなく、使おうと思えば全て使えた。


「どうしたんだアレス? そんなにぼーっとして」

「っ」

 

 突然話しかけられて少しビックリするが、平静を装って問題ない事を伝える。

 するとアランは少し不思議そうにしていたが、特に疑うことはなかった。


 俺はふぅ……と小さくため息を溢してアランのされるがままに身を任せた。



 俺は、そこでもう少し疑っていればと後悔することをまだ知らない———。









「よし、じゃあパパの神力を流していくからな」

「うん!」


 そう言ってアランは俺の身体に自身の神力を流し始めた。 


「どうだアレス。ちゃんと神力が感じられるか?」

「うーん……」


 既に感知はしているが、すぐに気付くのもおかしいと思い、分からないフリをする。

 するとアランは『まぁすぐには分からないもんさ』と笑っていた。


「ふむ……俺が神力を引き出してみるか? よし———ぁ」


 アランの神力が、神力が宿っている心臓と同時に『魔力溜まり』に触れ、その瞬間にアランの瞳からハイライトが消えた。


 そして———


「ぱ、パパ……?」

「…………」


 何故か俺を無視するアランが、瞳も顔もぴくりとも動かさずに突如、神力の流入を強めた。

 他人の物でも違和感のない魔力と違い、身体に入ると明らかに異物感がしたので、思わず顔を顰める。

 しかし何故かアランは流すことをやめない。


 俺は『何かおかしい』と感じると共に俺の勘が何かに警鐘を鳴らしていたので、やめる様に声を上げようとしたその時———


「———っっ!?」

『ちょっ!? コイツやりやがったわ!! ご主人様の魔力封印しようとしてるわ! くっ———そんなの私がさせる訳ないでしょうが!!』


 突然俺の身体に激痛が走ったかと思うと、『魔力溜まり』に溜まっていた魔力が、圧倒的な量の神力によって押さえつけられる。

 それと呼応して、俺自身の神力も荒れ狂う様に身体を駆け巡り、更に激痛が全身に走った。

 

 リリスが必死に対抗してくれているお陰で何とか俺の体は壊れずに済んでいた。

 逆に言えば、リリスと契約していなければ俺は此処で死んでしまってただかもしれないな。


「ぐっ……ァァァアアアアアアアアアア!?!?」

『ご主人様!? ごしゅ———』


 魔力を封印されそうなせいか、リリスとのテレパシーも聞こえなくなる。

 俺は朦朧とする意識の中、何とか堪えながら父親であるはずのアランを見ると———


「———規格外の魔力を感知しました。我が主人光の女神の命令を執行———封印開始———封印完了。第2の命令を執行———直ちに記憶の抹消を開始する」


 アランがまるで人間ではない平坦で無感情に、まるでゴーレムの様な冷たい声でそんな事を言っていた。


「く、クソ女が…………」


 その瞬間———俺の意識は健闘虚しく遥か深淵へといざなわれた。








「———女神様、私の息子の魔力が規定以上だったため、その場で封印してまいりました。事後報告となり申し訳ありません」

「———いえ、良くやりましたねアラン。流石は私の使徒です」


 アレスが気絶して数時間が経ったとある神殿の中。

 

 光の女神———イシスがアランの報告を聞いて機嫌良さげに微笑を浮かべて何度も頷いた。

 しかし何かを思い付いたかの様な表情に変わると、アランに聞く。

 

「それで……彼女・・はどうですか?」

「……ああ、シルヴィア・シャイニーロジックのことですね。大丈夫です。しっかりと教育は進んでおります。後少しで使徒としても問題ないでしょう」

「そうですか……それはいい事を聞きました。また今度、彼女も連れてきなさい」

「はっ!」


 それだけ言うと、アランは音もなくその場から消えた。

 そして神々しい神殿の中には女神イシスだけが残る。


「……魔力が異常に多いアレスですか……嫌な記憶を思い出しますね」


 そう言うイシスの顔は、先ほどの微笑は鳴りを潜め、憎悪に歪めていた。



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