第6話 禁術使い、この世界の現状を知る

「———もうっ! いきなり『息子に君は誰だ』って聞くなんて!! 2年も会わなかったくせにその言い方はないんじゃないの!?」

「す、すまん……ただ———」

「ただ、じゃありません!! いいから謝りなさい! じゃないともう家に入れませんからね!!」

「うっ……で———」

「入れませんよ?」

「「……」」


 ———現在父親のアランがエルメスに正座をさせられて、物凄く怒られていた。

 エルメスは物凄い剣幕で怒涛の勢いのままに、あの性悪女の第2使徒であるアランを完封している。


『この光景を見ているととてもスッキリするわ。あの性悪女が怒られてる様でね』


 それは俺にも分かる。


 俺が少し満足気に眺めていると、若干涙目になったアランが此方にやってきて、抱き着くようにして謝ってきた。


「ごめんよぉぉぉ……俺が悪かった……。お詫びに神力の使い方教えてあげるからな!」

「……ほんと」

「ああ勿論だ! パパに任せなさい!」


 胸を張りながらドンと叩くアラン。

 その姿に少しアホっぽさを感じてしまうが、あの鋭さから間違いなく曲者なのは分かりきっているので、警戒しておこう。


 しかし神力か……正直言って使いたいとは微塵も思わない。

 それどころか今すぐにでもこの身体から消し去ってやりたいくらいだ。

 アイツらと同じ力を使うなど反吐が出る。


『どうするのご主人様? 私は別に使わなくてもいいと思うけど……』

『———いや、使う。今断れば確実に怪しまれるし……少しでも神を殺せる可能性のある力を放っておくことはできない』

『……そう。まぁもしもの時は私に任せなさい! 私がバッチリご主人様を守ってあげるわ!』


 リリスが、見ていなくても分かるくらいに嬉しそうな声で言った。

 恐らく今まで散々俺に護られてきたので、自分も護る側に回ってみたかったのだろう。


『ふっ……頼りにしてるぞ』


 俺はそれだけ言うとテレパシーを切った。


 さて……神力が一体どの様な物なのか教えて貰おうじゃないか。

 

 ———ということで俺は神力を扱うこととなった。

 

 





「———いいか、アレス。神力は我らが光の女神———イシス様を含めた主神様方が人間に与えられた最強の力の源だ。故にこの神力が多い者はより神々に愛されていると言うことでもある。人々はそれに感謝して生きなければならない。分かったかい?」

「じんりょくのよあいひとは?」

「神にそこまで愛されていない平民と言うことだ。神力の殆どない下民は人間ですらない。アレは生きる価値がないから良くて奴隷、悪くて玩具だな」


 神力を教えてもらえるかと思ったら、最初は選民意識を定着させようとする聞くに耐えない話と、悲惨すぎる現実の現状だった。

 

 確かに前世でも魔力の低い者は生きづらい世の中だったが、それでもそれを補う様に天才達が様々な画期的な魔導具を生み出したり、魔力の少ない者が店や服屋を営んでいたのでそこまで差別は露骨になかったはずだ。

 流石に人が集まっているのでゼロには出来ないが、それでも普通に生きれる程度に差別は少なかった。


 しかし———この話を聞いている限り、どうやらこの世界の差別は相当なモノに思われる。

 神力のほとんどない者は良くて奴隷で、悪くて玩具とか幾ら何でもふざけすぎだ。


「……っ……」

『お、落ち着いてご主人様! 此処で怒ってもご主人様の正体が向こうの神にバレるだけよ!』

『……分かっている』

  

 俺はグッと拳を握って迫り上がる怒りを何とか堪える。

 

 そうだ……此処で俺がしくじれば神達を殺す機会が無くなってしまう。

 今の俺では絶対に勝てないんだ。

 此処は抑えなければ……。


 俺は徐々に落ち着きを取り戻し、アランに言う。


「パパ! じんりょく使いたい!!」

「おっ、やっぱりこんな話は流石に早かったか?」


 違う。

このまま聴いていれば自分が何をするか分からなかったから中断させただけだ———なんて言えるはずもないので、適当に頷いておく。


 するとアランは『じゃあまずは見ていてくれ』といい、見慣れた・・・・神の使う秘術———神術を発動させる。

 突然アランの背後に幾つもの光の時計の針が現れ、いつでも発射できる様に浮遊していた。


「———これが神術だ。どうだ? 凄いだろう?」

「うんっ!!」


 これも嘘。

 確かに良く出来た神術だと思うが、アイツらや精霊王などに比べれば全然杜撰なモノとしか言えない。

 前世の力があれば、アランは数瞬の内に灰と化すだろう。


 しかし、先程アランの神術の使い方を見ていたが、どうやら神術は使う力が違うだけで、魔術と発動方法は変わらないらしい。

 心臓から出た神力が魔力回路を伝って外に出て来る———という至って普通な使い方。


『ふーん……意外と神術って大したことないのね。昔と変わったのかしら?』

『いや、そうではないだろう。これは……明らかに神術とは言えないな』


 確かに使い方は同じだろう。


 しかし俺は本当の神術を知っている。

 発動すれば禁術に匹敵するか、或いはそれ以上の規模、威力、効果を齎す正しく神の御技を。

 そんなものがこの程度な訳がない。


『……コイツは何かを隠しているな』


 俺は開始早々、アランが本気で神術を教える気がないことを悟った。

 


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