第5話 禁術使い、父親に会う
———転生してから早2年が経った。
正直言って1年前と殆ど変わっていない。
俺の魔力が倍増したことと、身体的成長が起こった事以外は。
リリスと契約して、神力を封印して貰ってからは毎日魔力を使用していたし、軽めの魔術やそもそもリリスの召喚維持にも魔力を使っていたため、思った以上に魔力が増えた。
今では1年前の3倍から5倍ほどは増えていると思う。
更に、魔力回路も随分と広がり、今なら比較的安全な禁術や、上級魔術くらいなら使えそうな勢いだ。
因みに魔術は、下級、中級、上級、最上級、絶級の5段階に別れており、禁術はその括りから外れた魔術体系である。
なので禁術といえど、中級並みの能力しかないものもあれば、絶級よりも優れた禁術も勿論あり、一概に禁術が優れたモノであるとは言えない。
しかし実際に代償を支払えば多種多様な効果の魔術を使用出来、代償に目を瞑ればどの場面にも対応できる非常に有能なものだ。
その代償が目を瞑れないのだが。
「はぁ……きょうはゆううつだな……」
「そういえば今日はご主人様の父親が帰ってくるんだったわね」
そうなのだ。
これからあの光の女神の使徒である父親が帰って来るのである。
正直言って使徒には会いたくない。
ただでさえ何の力も持たない母親であるエルメス達に気を割いているのに、それに使徒が増えるとなると……非常に厳しい。
『まぁ……一先ずお前は帰ろうか、リリス』
「えっ? ちょっ———」
俺は一先ず父親にバレてはいけないのでリリスを魔界に返還させる。
悪魔と神は死ぬほど仲が悪いので、鉢合わせるとどうせ碌なことが起こらない。
俺がリリスを返還させた瞬間———
「———アレスーっ! そろそろパパが帰ってくるわよーっ!」
「え、エルメス様……そんなにはしゃいではドレスが汚れてしまいます……」
俺の部屋に完全に浮かれ気分でポワポワしている母親と、その侍女の———メリーも一緒に入ってくる。
「ママー!! メリー!!」
俺は普通の赤ちゃんを演じながらとことこ2人の下に歩いていく。
2人はそんな俺を見ながらうっとりとしており、上手く騙せている様である。
「あーなんて可愛いのかしら私の子は!」
「わ、分かりましたからドレスを引き摺らないで下さいぃぃ……」
メリーが『あのドレス高いのに……』と嘆いているのを見るに、色々と苦労している様だ。
そんなメリーの苦労など露知らず、我が母親は俺を抱っこすると、ほっぺたを自らのほっぺたに当ててスリスリし始めた。
「アレス、これからアレスのパパが来ますからねー?」
「パパ?」
「そうよパパよ! アレスのパパは物凄く強いんだから! 使徒様の中で序列2位なのよ!」
序列2位ね……それは悪い知らせを聞いたな。
あの狡賢くて性悪な奴の事だ。
大して実力のない者がアイツの使徒に成れるわけがない。
『大丈夫なの? 一応神力の封印も一時的に解いてるけど……』
『心配するな。危なければ数刻だけ記憶を忘れる魔術を使う』
記憶がなければそもそもバレるバレないの問題ではなくなるからな。
『まぁご主人様がそう言うならいいんだけど……』
どうやら未だにリリスは心配なようだが、もう時間が来てしまった。
ドンドンと玄関の扉を叩く音が聞こえたかと思うと、『エルメス、俺が帰ってきたぞ』という声が俺の耳に届いてきたからだ。
「はーい、ちょっと待っててね! ———それじゃあパパに会いに行こうねーアレス」
「うんっ!!」
俺は元気よく返事しながらも、心の内では不安が渦巻いていた。
しかし俺の体では逃げることなど出来ない。
俺を抱っこしたエルメスがゆっくりと玄関の扉を開ける。
すると———
「———アレスーーーーっっ! エルメスーーーーっっ!! 会いたかったよーー!!」
「うぇっ!?」
「きゃっ♪」
扉から飛び出てきた、見た所20代のイケメンが俺とエルメスに抱き着く。
身長が高いせいか、硬い胸板が俺の頬を直撃し、エルメスの胸に弾き飛ばされた。
エルメスは喜んでいる様だが、俺からすれば苦しい以外の何者でもない。
俺は必死に父親(であろうイケメン)を手で押して離そうとしていると、俺に気付いた父親(であろうイケメン)が『あ、苦しかったか? 悪い悪い』と言って離れる。
「———あなた、この子が私達の子よ! どう? 可愛いでしょう?」
「初めましてアレス〜〜俺がパパのアランだよ———!?」
締まりのないだらしない笑みを浮かべて見ていたのだが、俺の瞳を見た途端に驚いたという様に目を大きく見開いた。
その瞬間に背中から冷や汗がダラダラとかき始める。
「ぱ、パパ……?」
「どうしたのあなた?」
俺だけでなく、エルメスもどうして驚いているのか不明な様で首を傾げている。
その間もずっと俺はアランにジッと見つめられていた。
「———アレス」
「っ、ぱ、ぱぱ……?」
アランは俺を真剣な眼差しで言った。
「———君は何者なんだ……?」
———まずい。
俺は本格的に記憶の消去を覚悟した。
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