第2話 禁術使い、未知の力を見つける

 ———転生して1年が経った。


 初めの9ヶ月くらいは赤ちゃんの身体と言うこともあり、起きた瞬間に再び睡魔に襲われてまた寝る……と言う生活を送ることを余儀なくされてしまったため、ほんの少し魔力を操作するので限界。

 非常に勿体無いことをしたと思うが、前世ではかれこれ20年以上はこれほど休んだ事はなかったのでまぁ休暇の後払いだと思って自分を納得させた。


 因みにこの世界のことについては、過去に俺がいた世界である、と言う事以外現在何も知らない。

 母親であるエルメスが全く世間のことについて話してくれないからだ。

 自分で探そうにも、動こうとした瞬間に睡魔が俺を無条件に眠らせてくる。


 まさかこの俺が睡魔如きに敗北を喫すとは思わなかった。

 それ程に赤ん坊の時の睡眠が大事なんだと分かる。


 しかし———


「あう、あーあー(さて、そろそろ鍛錬を開始するか)」


 俺は1年経ち、ようやく睡魔に打ち勝てる様になった。

 なので、そろそろ本格的に鍛錬を始めようと思う。


 元来———魔力と呼ばれるものは、20歳頃には増えなくなる。

 身体の成長と同じで、歳を取れば成長が止まるのだ。


 逆に言えば———成長期は魔力量の増加が著しいと言える。


 そして今の俺は第1次成長期真っ只中だ。


 前世で魔力量増加の鍛錬を始めたのは5歳の時。

 そこから始めて前世でさえ人類最高峰の魔力だったので、今からやれば一体何処まで伸びるのかなど想像もできない。


「あうあうあうあうう(取り敢えず1番簡単な魔力増加法から始めるか)」


 まず、自身の鳩尾辺りにある『魔力溜まり』と呼ばれる、魔力を貯蔵しておく容器の様な場所から魔力を引っ張り出して、全身に流れる魔力回路に通す。

 魔力回路は初めの内は細く狭いため少ししか魔力が通らないが、流せば流すほど広がり、より魔術に魔力を流せる様になる。


 思ったよりも狭い……。


 どうやら魔力回路も年齢と共に広がるらしく、今の俺の魔力回路は碌に魔術を発動できないほどに狭かった。


 俺はいきなり大量の魔力を流して魔力回路が破裂しない様に注意しながらゆっくり流していく。


 それにしても……コイツ、意外と魔力量が多いな。


 この身体には俺が5歳の時と同じくらいの魔力量があった。

 つまり———


「あうあうあーあー(前世の俺を越えれる可能性が高い)」


 俺は思わぬ幸運にテンションを上げながらも、繊細に魔力を操作して破裂しないギリギリ辺りで魔力を無理に流す。

 そのせいで全身が骨にヒビが入るほど痛みを生み出すが、この程度なら全然耐えられる。


 ———禁術使いを舐めるな。


 禁術使いは強力が故に代償と言うものを払わなければならず、その中に全身の骨がボキボキに折れると言う代償もあった。

 それに比べればこの程度など机の角に小指をぶつけるより痛くない。


「あううーうー———?(後は心臓に回せば全身を循環———ん?)」


 俺が心臓に魔力を流そうとした途端、何かが魔力の流れを阻害した。

 思わぬ事態に再び心臓が弾け飛ばないよに1度魔力運用を止めて、冷静に考えてみる。


 一先ず、外部からの影響というのはほぼ無いと見てもいいだろう。

 俺は赤ちゃんの頃からずっと記憶があるし、流石に寝ている途中でも何かされれば起きないはずがない。

 だから仮にやられているとすれば胎児の時だが———それならば俺よりもエルメスの体にも何か異常があるはずだ。


 なので原因は俺の内的要因だろう。

 先天性のモノか後天的のモノかは不明だが。


「あーあーううーうぁー(さて、一先ずそのモノを探ってみるか)」


 俺は瞳を閉じて外界への意識を完全にシャットダウン。

 その瞬間に視界は勿論の事、音も振動も匂いも感触も何もかもが消える。

 

 意識は真っ暗な空間へと移動して、そこには左右も上下も地面も空もない。

 そんな中にポツンと自分の身体が目の前に現れた。


 これは前世からの得意技で、外の世界から完全に意識を隔絶することによって自分の身体のことを詳しく知る事が出来る。

 

「さて……何が原因か確認してみるかな」


 因みにこの世界は謂わば俺の精神世界のため、赤ちゃんでも話すことができる。

 精神は立派な大人だからな。

 

 俺が目の前の身体を隅々まで確認してみると———


「———これが原因か」


 実にあっさりと確認出来た。

 俺の心臓に何処か感じたことのある力が蓄えられており、軽く魔力を流してみると、まるでお互いがS極とN極かの様に魔力と反発している。


 そして俺の経験から魔力と反発するものは唯一つ———。



「———神力……」


 

 俺がこの世で最も嫌う、『神』が行使する力の源であった———。

 

 


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