第2話王のスピーチ

王は娘と青年の結婚を認めることにした。娘は小躍りして、青年の家にプロポーズに行くと言って出かけた。


青年の家に行って娘が身分を明かすと、心底彼は驚いたようだった。知らぬこととはいえ無礼の数々、すみませんでしたと青年は詫びた。

「そんなことはどうでもいいわ。それより私と結婚するの?しないの?」

「はい、ぼくのような若輩者でよければよろしくお願いします」


青年の両親は、何が起こっているかさっぱり状況が呑み込めずぽかんとしていた。だが側近の者たちが事情を説明すると、やっと話が見えてきたようで戸惑いながらも二人とも涙を流して喜んでいた。


「あの、ぼくは城に入ればいいのですか?いくら何でも王の娘ともあろうお方が、こんな家に住むわけにもいかないでしょうし、高齢のぼくの両親のことについてもご考慮していただきたいのですが」

「それはご両親が望めば城で一緒に暮らしてもいいし、ここに住みたいということなら、できる限りの支援はするわ。ご両親に訊いてみて」

話し合い、両親も城で同居することとなった。


青年と両親は城に入り、歓待を受けた。翌日結婚式を挙げると王から言われた。随分スピーディだなと青年は驚いたが、トップというのは決断が早いものなのかもしれない。


前祝いとして、夕食会が開かれた。青年とその両親が今まで一度も見たことも、味わったこともない豪華絢爛な食事が並べられていた。


食べる前に王のスピーチがあった。

「まずは結婚おめでとう。きみの両親の前でこう言うのは甚だ不遜だが、実は最初娘からきみのことを聞いた時は随分と驚いた。よりによって平民の男と、そんなことになっていたとはとな」

何だか居心地が悪くなった青年とその両親は、立ち上がって頭を下げた。


「しかし聞けば、皆が逃げ惑う中で熊に立ちはだかる勇敢さ、見返りを求めぬ謙虚さ、話をして分かったきみの誠実さ、というエピソードがあったそうじゃないか。目を潤ませて熱く語る、娘の思いを信じてみようと思ったのだよ。」

青年と両親は深く頭を下げた。


「面白いと言っては何だが、きみたち二人はサクセスストーリーの象徴だと思う。勇敢な若者が体を張って女性を守り、結ばれて末永く幸せに暮らしましたとさ、という。何があっても娘を大切にし、一生幸せに過ごしていってほしい」

王はそう言って、頭を下げた。もったいないお言葉と、青年と両親は恐縮してまた頭を下げた。

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