第三章 共和国(10)
「オイてめえまだ隠してんじゃねえのか!? 隠し芸あるなら全部吐き出しやがれ!」
「落ち着いてください弥生さん! とりあえず処刑です! バラして埋めましょう!」
「メスにされるメスにされるメスにされるメスにされるメスにされるメスにされる!」
「あははははは! あーっはっはっはっはっははははははははははははははははは!」
地獄絵図であった。
ウィッグ被り直した馬鹿を弥生が胸倉掴んで吊るし上げ京香が霊術をマジ展開しルーカスが頭を抱えて丸くなりその全てをアマリリスが指差して大笑いしている。その上、
「何この状況。つーかこいつら誰?」
「うーん。さすがに私もここはアンタ黙ってた方が良いと思うな?」
「「「お前が匙投げたら何も収集つかないだろ!」」」
「あははは! あーっはっはオウエッゲホゴホ!」
渦中の馬鹿が健忘を併発し、医者が安楽死を提案する。
地獄絵図であった。
時間という全能神の御業により騒ぎが一旦の終息を見たところで、白雪より向日葵へ諸々の状況説明がなされ、全員がちゃぶ台に向かって座る。円卓会議である。当面の議題はただ一つを置いて他に無く、最もダメージの少ないアマリリスが始動を担う。
「結局、君の女装はなんなの?」
「半分は趣味です」
「「「趣味かあ……」」」
「なあなあなあ白雪。なんか全員武器構えてこっち見るんだけど」
「英雄主義的に全員倒せば解決よ。頑張りなさい。協力するわ」
「「「余計にややこしくすんな!」」」
だが、殴ればすぐにでも解決できるではないか。
馬鹿にして阿呆、もとい女装、すなわち向日葵はそう考える。
一応は真面目に弁明を、ということで、女だと戦場で甘く見られるだの、女装の方が何かと隠し武器を持ちやすいだの、納得できないこともない説明がなされたが、
「ふうん。それが仕事の方?」
「いえ、趣味の方です」
「「「殺す」」」
「師匠に乗せられたけど、女相手に手抜くようなのはそもそも雑魚ばっかりでなあ」
「マジの英雄連中は、子供だろうが容赦しないわね」
向日葵と白雪の談に、皆は納得しないまでも閉口する。魔力出力の多寡は完全な個人依存。出るも出ないもソイツ次第。老若男女、種族、血筋さえ問わない。戦場にてまみえたのならば相手が何であろうが躊躇なく殺せ。ここまで生き延びた英雄ならば、誰もが知っている。ちなみに魔力容量は種族に依存する。総合的に見れば能力に大差はない。
「師匠、ねえ……」
アマリリスは、ふむ、とちゃぶ台に頬杖をついて、向日葵と白雪を見て、
「そいつが、死んだはずの魔術王『グロリオサス・トワイライト』ってわけだ」
京香の、弥生の、ルーカスの見開かれた目が、二人の兄妹に集う。
「なんで、そう思う?」
「思うんじゃなくて、知ってるのさ。本人から、直接聞いてね」
向日葵と白雪は、一度目を見合わせ。
観念したように肩を落とす。
「死んだよ。三年前だ。きっちり焼いて、埋めた」
「遺言だったからね。遺品は何も残ってないわ」
「らしいっちゃ、らしいねえ」
アマリリスは一度、グイっと伸びをし、立ち上がる。その辺で瓦礫の山と化した備品の中から、ガラガラと、ホワイトボードを引っ張ってきて、
「グロリオサスは、二度世界を変えたと言われている」
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