第12話 ニースの風景
ニースとモナコはバスで二十分で移動できるし、パスポートコントロールもなければ、フランスフランも使え、公用語もフランス語とあっては、気楽にいける隣国になる。
ミラノまで頑張ってお買い物に出かける人たちもいたけれど、そこまでのバイタリティがなかったので、ちょっと時間があると私は一人でモナコ行きのバスに乗った。
モナコは世界有数のお金持ちが集まる国とも知られているので、治安も良く、一人歩きをするには最適だった。
カジノもあったが、入るのにドレスコードもあり、そんなドレスもなければ、着こなせる容姿でもないので、カジノには入らなかった。
物価はやはり高い。何もかもが高級に見える。私はモナコの治安の良さと品の良さに安心と退屈をしていた。
それなのにモナコに行くのはモナコとニースの間を走る海の風景が美しいからだ。海沿いの崖のような道をバスは走っていく。海は宝石を散りばめたように太陽の光を眩しいばかりにキラキラと反射させている。
グレースケリーモナコ王妃も運転の最中に事故を起こして命を落としたという。色々あって、海を眺めていたのかもしれない。
私は運転せずに、美しい海を見ている時間が何よりも幸せに感じた。
ニースの海は遠くから見ると本当に綺麗だった。ビーチに降りると、人々が海水浴を楽しんだり、日光浴を楽しんだりして、夏を心から満喫している人たちで溢れかえっている。
いつか、この海を語学学校で一緒の智子ともう一度見たい、と本当に思った。いまだにその思いは果たせていないけれど。
ニースの朝市も大好きだった。特に果物が売られていて、私のお気に入りはアプリコットだった。日本ではアプリコットはジャムでしか食べたことがなかったので、生のアプリコットを初めてニースで食べた。平たいオレンジ色の果肉は皮ごとそのまま食べる。甘くて、美味しい。
どうして日本は生のアプリコットを売らないのだろうか、とそれは今でも謎である。日本の誇れる技術だと絶対作れそうなのに。
市場は活気があって、いろんなものを売っているが、ホームステイをしているので、買うものはせいぜい果物くらいだった。
果物を薄っぺらい紙袋に入れてもらって、歩きながら食べる。
二週間のニースでの語学留学はあっという間だった。
いつも水道水入りの赤ワインを飲まされているムッシュがかわいそうに思って、私は安いがボトルのワインを買った。しかし何も分からなかったので、赤ワインの炭酸入りワインだった。
マダムに「変なワインね」と仕切りに言われた。
甘くて、それなりに美味しかったけれど、水道水ワインの方がムッシュにとっては良かったのかもしれない。
そしてたった二週間の語学留学で喋れるようになったのか、というと、それは行く前に全然喋られなかったから、「OUI」だ。
二週間の語学学校+ホームステイで喋る技能に限定してその能力は上がった。読み書きは全然だ。
なんとかして伝えよう。
そのためにはどうしたらいいのか。
何が必要なのか。
そういうことを掴んだ気がする。もちろん、完全に喋れる訳ではない。ただ、喋る能力は確実に上がった。(もちろん初級会話の話ではある)
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