第11話 ホームステイあれこれと謎の肉
ホストファミリーの娘さんはたまに帰ってきて、自分の結婚の話を母にしていた。
結婚しても色々あるんだな…と思いつつ、私ができることは何一つないので、知らないふりをしていた。マダムは困っていたようだったが、やはり父親のムッシュは相談すらされていないようだった。
ムッシュはお酒が好きで、よく飲むのだけれど、いつもマダムがカラフに赤ワインを持ってくる。私はお手伝いをすると言って、(大してできないが)キッチンに行くと、カラフに大型パックに入った赤ワインを注いだ後、水道水をそのまま足していた。
(カルピス? 赤ワインカルピス?)
薄めて飲む赤ワインが販売されていたのか、あるいはマダムがムッシュの体を心配して薄めているのかは謎だったけれど、思い切り蛇口を捻って水を足していた。
(それって美味しいのだろうか)と思ったが、ムッシュは何の文句も言わず飲んでいた。
ある日の夕食に謎の肉が出てきた。鳥の胸肉のようだが、小さく二センチ角に切られて、玉ねぎや、にんじんをコンソメで煮られていた。(マダムのご飯はいつも美味しかった)
「これはなんですか(超初級フランス語)」
「ボライユ」
「え? 鶏じゃなくて?」
「鶏じゃない」と言って、マダムは綴りをメモしてくれた。
私が持っていたコンパクトフランス語で調べると「家禽類」と書かれていた。いや、何の肉?
「分かったでしょ?」と言われて、私は辞書を「ここ?」と見せると、大きく頷いた。
「そう、これ。書いてるでしょ」
フランス人は家禽類という文字が読めるわけがないので、そこに肉の種類が書いてあると思っている。結局、私は何の肉を食べているのかわからないまま、ぼんやりと食べた。
食感は鶏胸肉にそっくりでパサパサしている感じだった。
未だに何の肉だったのか分からない。
でもマダムのご飯は美味しくて、(二回目)私のホームステイは当たりだった。
ホームステイの当たり外れは大きく、中には家族が本当に優しくて、週末はどこかへ連れて行きますよー(無償で)という家もあった。私のマダムは自由に楽しんで、という感じだ。
私はホームステイ一人部屋を選んだ。少し割高だが、一人部屋にしてくれる家はそこまでお金に困っていないだろう、と推察したからだ。
一つの部屋に二つベッドを入れて、二人部屋でホームステイさせる家もある。必ずしもそこがお金が欲しいからそうしているというわけではないのかもしれないが、可能性としてはやはりお金が欲しいから…という家もある。
色んな家庭があるから、本当にこればっかりは当たり外れが大きい。せっかく行くなら、私はそんなことで煩わせたくなかったから少し割高でも一人部屋で受け入れてくれる方を選んだ。
日本人の学生さんで「ご飯がほぼ、サラダだけしかない」と言う人たちもいた。マダムが怖くて、ご飯が少なくて…とため息をついていた。その内容も行き違いがあるかもしれないが、せっかくお金を払って留学に来たのだから、我慢を通すのは良くない。
私はクラスの恭子さんが英語ができるのでその学生さんの通訳をお願いした。恭子さんは嫌な顔一つせずに、学校のオフィスまで付き添って、通訳をしてくれる。ものすごく分かりやすく、オフィスの人に説明して、問題があるので、すぐに解決してほしいと伝えた。
そのおかげで、二日後には新しいステイ先に移れたようで、ものすごく学生さんに感謝されていた。移った先のお家はご飯もちゃんと出してくれて、いいお家だったそうだ。
フランスは「伝える」と言うことが必要だし、それも喧嘩腰ではなくて「本当に困っている」という感じでお願いすると、割とうまく行く。困っている人の力になりたいと思っている人が多いからだ。
ホームステイの問題は留学では結構、大きな問題となる。後々トゥールで留学する際も、色々あった。
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