第164話 親方

 ドワーフ王が直々に待っていた。

 このドワーフ王は意外と腰が低い。前回の遺跡調査の時もそうだが、抵抗なく頭を下げたりもする。

 必要な時は、変なプライドに邪魔される事なく堂々と頭を下げる。潔い王だ。


「長老殿、リヒト殿、よく来られた」

「またお世話になります」

「いやいや、いつでも来て下さって良いのだ。ハル、覚えてくれているか?」

「あい、おうしゃま」

「そうかそうか。相変わらず可愛いな!」


 ハルちゃんは、どこに行っても人気者。

 長老からの連絡で、予めロマーティ達が話を通してくれていた。その為、話は早い。


「で、我が国にはどこにあるのだろうか? その精霊樹というものが」

「そうですな。ハル」

「じーちゃん、おりぇか?」

「ハルにも分かるだろう?」

「ちょっとまってくりぇ」


 そう言ってハルは、いつものポーズだ。両手を胸にやり目を瞑る。ワールドマップを見ているのだそうだ。あまりちゃんと見られた事はないが。


「あ、分かったじょ。あしょこら」

「そうだな。ハルも行った事があるだろう?」

「おー」


 だから、どこだろう?


「この城のうりゃがわと、山ん中ら」

「そうだな、この国は2箇所だ」


 アンスティノス大公国では各層に何箇所か精霊樹があった。なのにツヴェルカーン王国はたった2箇所なのか?


「ワシが思うには、瘴気を浄化する魔石がちゃんと設置されているから、精霊樹の必要もなかったのだろう」


 なるほど。最初に、世界各地にある精霊樹が瘴気を浄化する手助けをしていると話していた。

 あくまでも、手助けのはずだった。

 各国には浄化の魔石が設置されているからだ。だが、アンスティノス大公国にはそれがなかった。

 だから、あれだけの本数の精霊樹があったのだろうと長老が予測している。

 それでも、精霊のいない国だったんだ。どれだけ環境が悪かったのか分かるというものだ。


「長老殿、城の裏側は分かる。裏庭のどこかにあるのだろう。しかし、ハルくんの言う山の中とは、もしや?」

「そうです、あの巨大な魔石が設置されている付近です」


 覚えておられるだろうか? 前回、遺跡調査でハル達が行った場所だ。

 火山地帯のど真ん中にある。態々青龍王やおばば様の手を借りて行った場所だ。


「精霊樹とは初めて聞くのだ。私も見てみたい」

「陛下、私が同行させて頂きます!」

「お前が見ても、私は見られんだろうが」


 どうやら今回もゲレールが同行するらしい。そうなると、またコハルさんの出番だ。なにしろ、このままだと精霊樹を見る事ができないのだから。

 どうせなら、見たいだろう。


「長老殿は信頼している。どこでも自由に行かれると良い。ああ、それとだ」

「はい、何かありますか?」

「親方とリンが会いたいとうるさくてな」

「おやかちゃ!」

「ワハハハ。ハルくん、覚えているか?」

「あたりまえら。おやかちゃの剣はちゅかいやしゅいんら!」


 え、いつも勿体ないと言って無限収納に入れているのに。

 と、いう事で先に親方とリンに会う事にした一行。親方は分かるがリンとは誰だ? と思っておられるかも知れない。

 工房『シュシュ』の店主リンだ。キャラがシュシュと被っている。

 ハルやカエデ、ミーレの服やシュシュのチョーカーを作ってくれた。


「しゅしゅと似てんら」

「あら、ハルちゃん。そうかしら?」

「ん、しゃべりかたがいっしょら」


 と、言ってもリンも男性だ。オネエさんらしい。

 親方の工房に入ると、ヴォルノとジャーノが待っていた。

 ヴォルノが男の子、ジャーノが女の子の鍛冶師見習いだ。


「長老様、ハルくん、リヒト様!」

「お久しぶりです!」


 この2人。遺跡調査をする切っ掛けになった出来事を起こした張本人だ。

 大森林の中にある遺跡を壊してしまった。そこから真っ黒な瘴気が流れ出し、魔物も溢れ出した。

 その時に偶然、遺跡の地下にある瘴気を浄化する魔石を発見したんだ。

 それから各国の遺跡を回ることになった。


「元気にやっとるようだな」

「はい!」

「親方を呼んできますね!」


 元気そうだ。工房兼店舗の中には一通りの武器が並べられている。

 この国でも有名なエルダードワーフの親方の工房だ。親方はヴェルガーという。

 ドワーフらしい小柄のガッシリとした体つきで、長い髭もある。いつも目を保護する為のゴーグルを頭に乗せている。

 その親方がやって来たようだ。


「長老か! ハルやリヒトもいるのか!」


 大きな声だ。店にまで聞こえてくる。


「おーッ! 長老! ハル! リヒトもいるのか!」

「親方、久しぶりだ」

「おやかちゃー!」

「アハハハ、相変わらずだな!」


 気の良い親方だ。弟子が迷惑を掛けたといって、リヒト達の剣のメンテナンスをしてくれた。

 その時に、ハルとカエデの剣も打ってくれたんだ。


「おうおうおう! 久しぶりじゃねーか! 剣は使ってるか!?」

「当たり前じゃねーか。ほら!」


 と、リヒトが腰につけている剣を見せた。


「おう! また見てやるから置いてけ!」

「アハハハ! 有難う!」

「ハルとカエデはどうだ?」

「持ってるで!」


 カエデはいつも腰に帯剣している。カエデのサイズに合わせて作られた、短剣よりは少しだけ長い双剣だ。

 カエデはエルヒューレ皇国でメイド服を着ている時にも必ず帯剣している。


「おりぇももってりゅじょ」


 ハルは無限収納から取り出した。やっぱり、無限収納に入れているのだね。

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