第165話 シュシュは賑やか

「ハル、お前収納してんのか?」

「らって、もっちゃいねーし」

「いやいや、使わねー方が勿体ないだろうよ」

「え、しょう?」

「ああ、そうだ。カエデやリヒト達みたいにいつも帯剣しとくんだ」

「けろ、おやかちゃ。おりぇ、ちびっ子らからじーちゃんとかに、らっこしてもりゃうんら。しょんとき、邪魔なんら」

「ああ、なるほどな。今もそうだな」

「しょうしょう」


 ハルは長老に抱っこしてもらっている。いつものハルの定位置だと言ってもいい。

 それにハルの必殺技、お馴染み『ちゅどーん!』だ。

 その時に邪魔になると言って、ハルはいつも無限収納に仕舞っている。

 宝の持ち腐れだと、カエデに何度言われても変えようとしない。いや、聞いちゃいない。いつも大事そうに、無限収納に仕舞い込んでしまう。


「まあ、みんな置いて行け。俺がメンテナンスしておくからよ。また、帰る前に取りに来いや」

「親方、手間掛けるな」

「長老、何言ってんだ。遠慮すんじゃねーぞ」

「アハハハ、親方頼んだ」

「おう! 任せな!」


 長老達が親方の工房で和やかにしていると、賑やかな奴がやって来た。


「ちょっと、来ているんですって!?」


 そう『工房シュシュ』の店主、リンだ。『シュシュ』という名前が関係する人は賑やかなのだろうか?


「おう、リンか。世話になったな」

「やだ、長老ったら何水臭い事を言ってんのよ! あらー! とっても似合っているじゃない! 流石、私だわ!」


 本当に賑やかだ。一人で喋っている。

 ハルやカエデ、ミーレが今着ている服はリンが作った物だ。戦闘服というにはとても可愛いくて、まさか戦闘服には見えない出来だ。

 それに、シュシュがしているチョーカーだ。

 真っ白のシュシュに良く映える黒のレース編みのチョーカーだ。


「あら、リンじゃない。久しぶりね!」

「シュシュじゃない! 相変わらず綺麗だわ!」


 そう言いながら、シュシュに抱き着いている。どっちがどっちの言葉なのか分からない。

 ヴォルノとジャーノが気を遣ってお茶を出してくれている。

 長老やリヒトはもう落ち着いているし、長老のお膝の上にはジュースを貰って飲んでいるハルが座っている。

 シュシュとリンが盛り上がっている中、のんびりとお茶を飲んでいる。

 その内、ジャーノがクッキーまで出してくれた。すると、コハルが出てきてハルと一緒に食べている。


「ちょっと長老、リヒト、何落ち着いてんのよ!」


 おや、やっとリンが気が付いたぞ。

 

「え、俺は用事ないぞ」

「やだ! なんて冷たい事言うのよ! 酷いわね!」

「そうよ、リヒトったら冷たいわ!」


 本当にどっちがどっちなのか分からない。


「そんな事より長老」


 親方にそんな事と言われてしまっている。


「何やらまた珍しい事をしていると聞いたぞ」

「まあ、そうだな。普通は見えないからな」

「えぇッ!? 見えないの!? どういう事なの!? 何なの!?」


 はいはい、リンは少し落ち着こう。

 長老が、親方に精霊樹の話をした。エルフ族でも、ハッキリと見えるのはハルくらいなのだと。


「長老でもか?」

「ワシはなんとか見えるが、ハルほどではないぞ。何しろハルは精霊が見えるからな」

「ブフッ! せ、精霊なんているの!?」


 はいはい、うるさいよ。お茶で咽せているのは、リンだ。この国でも、精霊は空想上のものなのだろう。


「いやいや、だがワシらも火の精霊様を祀っているんだ。鍛冶屋はみなそうだ」

「ほう、それは良い事だな」

「本当にいるのか? 精霊様はよう」

「いりゅじょ。おやかちゃの工房にもいりゅじょ」


 ハルには火の精霊が見えているらしい。

 ドワーフ族の国は鍛冶師の国と言っても過言ではない。その国で有名なエルダードワーフの親方が話していた様に、鍛冶屋ではみな火の精霊を祀っている。

 その所為なのだろう。この国には火の精霊が多くいるそうだ。

 鍛冶屋にとって、火は切っても切れないものだ。火力が大事。その為、建国当時から火の精霊を祀る事が当たり前になっているのだという。


「いいことら」

「そうか!」


 エルフ族に通じるものがある。エルフ族は見る事ができなくても、太古の昔から精霊を守ってきた種族だ。

 ドワーフ族も、実際にいるのか分からない、見た人なんていない。それでもずっと火の精霊を祀ってきたのだ。

 

「見えなくても、大切にする気持ちが大事なのれす」


 コハルが言う。コハルもずっとそう言ってきた。だからエルフ族は神に愛されるのだと。


「ワシも見てみたいぞ!」

「あたしも! あたしは火の精霊様を祀ってないんだけどぉ」


 なんだよ、そうなのか? 確かにリンは鍛冶師ではない。


「だって火は使わないんだもの。でもね、火に特定しないで精霊様はお祀りしているわ。この国では普通じゃないかしら?」


 鍛冶屋だから火の精霊に特定しているが、そうでない者達は特定せずに精霊自体を祀っているらしい。

 それはとても良い事だ。

 

「この国は火山地帯だからな。昔から精霊様を邪険にすると、山が怒ると言われているんだ」

「精霊も火山地帯のエネルギーの、制御と放出を手伝っているなのれす。それは、正しいなのれす」

「コハル、そうなのか?」

「はいなのれす。長老やハルが浄化した時にも、精霊は手助けしていたなのれす」

「それは感じていだがな」

「え、じーちゃん、しょうなのか?」


 ハルは感じてはいなかったらしい。

 ほっぺにクッキーの屑がついているぞぅ。

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