第163話 ツヴェルカーン王国

 ツヴェルカーン王国の防御壁の前で待っていたのは、駐在大使としてツヴェルカーン王国に滞在している2人だ。

 金髪にマロン色の瞳のリョースエルフのロマーティと、ダークシルバーの髪と瞳のダークエルフのシオーレだ。2人共、アヴィー先生の教え子だ。

 おや、もう一人いるぞ。


「長老殿! 皆様! お久しぶりです!」


 ブンブンと手を振りながら叫んでいる、エルダードワーフで考古学者のゲレールだ。

 ドワーフらしい体形だ。『遺跡調査も体力が資本!』と言っている通りガタイが良い。

 髭はそれほど長くはないが、顎鬚も口髭もフッサフサだ。栗茶の髪を後ろで1つに結んでいて栗色の瞳をしている。学者だからか、ドワーフにしては落ち着いた雰囲気だ。

 だが、話し出すとドワーフらしい熱い奴だ。

 以前、遺跡調査の時に同行した。


「えっちょ、げりぇーりゅしゃんら」

「アハハハ! ハルくん、覚えていてくれたのか! 嬉しいぞ」

「覚えてりゅじょ」

「ゲレール殿、態々待っていて下さったのか?」

「それはもう! また皆様が、なにやら面白そうな事をやっていると聞きまして!」


 いやいや、面白い事ではない。


「私達がお待ちすると言ったのですが」

「ロマーティ、シオーレ、また世話になるな」

「いえ、長老。何を仰います。王には話を付けてあります。自由に動いて頂いて大丈夫ですよ」

「そうか、すまんな」


 ロマーティとシオーレも、以前会っている。

 

「ハルくん、相変わらずとても可愛い」

「ろまーてぃしゃん、しおーりぇしゃん」

「おー! 名前を呼んでくれるとは! 感動です!」

「ロマーティ、うるさい」

「シオーレ、この感動が分からないのですか!?」


 ロマーティはとってもエルフ族らしく、ちびっ子が大好きだ。

 

「抱っこさせてください」


 と、以前ハルにお願いしていたくらいだ。


「ハルくん、相手にしなくてもいい」

「ん、らいじょぶら」

「アハハハ、相変わらずだな」

「リヒト様、お久しぶりです。ご案内致します」


 と、事を進めるシオーレ。その隣でロマーティはウズウズとしている。


「ハ、ハルくん、抱っこは駄目かな?」


 やはり言い出した。どうやら、我慢できないらしい。


「いいじょ、ん」


 ハルが素直に両手を出す。

 

「おー! 有難う! 門を入るまで抱っこして行きましょう!」


 ハルはもう仕方ないとでも思っているのか? それとも慣れか?

 大人しくロマーティに抱っこされている。

 ハルを抱っこしてご機嫌なロマーティと、シオーレが先導して入門を済ます。

 火山地帯の地形を利用した、天然の要塞の様な防御壁が聳え立つドワーフ族の国『ツヴェルカーン王国』だ。

 この国自体が火山地帯の中にある。以前、遺跡調査をした時にも火山地帯のど真ん中に遺跡があった。

 現在は長老が転移の魔法陣を設置していて、エルフ族なら誰でも行けるようになっている。

 アヴィー先生が携わっている4カ国協定。その協定で各国の遺跡のメンテナンスをエルフ族が請け負っている為だ。

 あの時は初めてだったので、そこに行く為にドラゴン族の青龍王とおばば様が態々やって来て協力してくれた。

 青龍王の背中に乗って遺跡まで行ったんだ。

 ハルが青龍王の赤ちゃんドラゴンを、偶然保護した事が縁で交流がある。

 実は長老はそのずっと前から、おばば様や龍王達と交流があったんだ。『次元の裂け目』に吸い込まれて行方不明になったハルの祖母とも面識があった。おばば様は、その一連の事を知ってもいた。

 だからハルが初めておばば様を訪ねた時は、それは驚かれた。

 おばば様は驚きながら、涙を流していた。震えながら本当に大事なものを扱うように、優しくハルを抱きしめていたんだ。

 それからは、自分の孫のようにハルを可愛がってくれている。

 ハルも懐いている。今回の精霊女王探しでもヒポポと引き合わせてくれた。

 ハルが唯一、精霊樹を認識していたのもおばば様の家の庭にある精霊樹だ。

 今回、ドラゴシオン王国とアンスティノス大公国を回った。精霊女王の手掛かりは掴めずにいる。このツヴェルカーン王国で何か進展があると良いのだが。


「長老殿、今回はまた信じられない事をされているそうで」

「アハハハ。信じられんか」

「いや、長老殿達がされている事だ。信じますぞ。しかし、実際にエルフ族の方々の能力を目にした者しか、なかなか信じられる内容ではありませんな」

「そうだろうな。なにしろ目に見えないのだから」

「そこです! 目に見えないものをどうやって探されているのか!?」


 はいはい、お話は後にして先に移動しよう。


「城で王がお待ちですので」

「そうか、分かった」


 この国自体が火山地帯にあるんだ。火山の地形を上手く利用している。

 その国の城も、もちろん火山地帯の地形を利用して建てられている。

 エルヒューレ皇国やアンスティノス大公国の城とはまた違った趣がる。火山地帯が並ぶ麓、その高台に岩をくり抜いたかのように建てられた城だ。

 一行は遺跡調査の時にも来ている。

 その城の謁見室へと案内された一行。

 謁見の間のように仰々しい間ではなく、応接室を広く豪華にした様な部屋だ。

 そこで、王が待っていた。

 ツヴェルカーン王国のドワーフ王、ドヴェルク・ツヴェルカーンだ。

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