第162話 食い気

「アハハハ! ハルの言う通りだな」

「じーちゃん、こりぇうめーじょ」

「そうか、沢山食べなさい」

「おー」


 ハルちゃんチームのシュシュとカエデは食べる事に集中している。

 コハルまで、ほっぺを大きく膨らませて食べている。


「私達は一体何に拘っていたのか」

「侯爵、分かってくれたか」

「はい、閣下。私は保身に走っていたようです」


 この出来事を境に、アンスティノス大公国の協定への加盟が急速に進んだ。

 今回、精霊樹を見たメンバーには入っていなくて、まだ反対をしていた貴族達をあの侯爵が説得して回ったそうだ。

 それほど、ヒューマン族の貴族にとっては感動的な事だったらしい。

 長老は万が一、コハルの意に添わないようなら貴族達の記憶を消すとまで言っていた。

 その必要はなかった。


「ああ、そうだ。言い忘れてましたが、精霊樹が見えるのは今日だけの限定的なものです。明日になれば見えませんぞ」


 と、長老が言った時の残念そうな貴族達。肩を落としていた。

 ならば見ておかないとと、挙って精霊樹を見に出て行ったほどだった。


「これで私も心置きなくハルちゃんと一緒に行けるわ!」


 とは、アヴィー先生だ。いやいや、まだ協定の締結が残っている。


「だって、長老は行くんでしょう?」

「そりゃそうだ。ワシはハルと行くぞ」

「ズルイわよ。いつも長老ばかり一緒なんて」

「ズルくはないだろうが」


 はいはい、仲が良いのは分かった。


「ハルちゃん、私も一緒に行きたいわ」

「ばーちゃんはばーちゃんにしかできねー事がありゅじょ」

「だってぇ、ハルちゃん」

「しゃーねー。がんばりゅんら」

「分かったわよぅ」


 と、アヴィー先生が少しスネたりしていたが。一行は次の国へと向かう。


「じーちゃん、ちゅぎはろこら?」

「ハル、ワールドマップだ」

「しょうらった。後れな」

「ハル、後でなのか?」

「しょうら、今は馬に乗ってりゅかりゃな」

「ハル、支えてやるぞ」

「りひと、いいんら」

「いいのかよ」

「らって、じーちゃんは分かってりゅかりゃな」

「ハルも分かる様にならないとな」

「おー」


 相変わらずだ。そんな話をしながら一行はもうアンスティノス大公国の6層目にいた。

 長老の転移でショートカットをしまくっているのだが出国はちゃんとするらしい。

 今更感が半端ないが。


「次はツヴェルカーン王国か?」

「なんら、りひと。分かってりゅのか?」

「行っていない国はそこだけだろう?」

「なんれら、しぇいりぇめーりゅも行ってねーじょ」

「あんだって?」


 また、何処かのおじさんみたいになっているリヒト。

 しかし、セイレメールは海底にある国だ。そこには精霊樹はあるのだろうか?


「精霊樹はあるのだが、海は精霊女王の姉妹がおられるんだ」

「じーちゃん、しょうなのか!?」

「ハルはまだ勉強していなかったか? そうなのだよ。だから、精霊女王を探すのは陸だけだ」

「え、しょうなのか? また行けりゅと思ったのに」


 おやおや、ハルちゃんはセイレメールに行くつもりだったらしい。


「泳ぐのおもしれー」


 はい、精霊女王とは関係ないぞ。


「しゃかなもうめー」

「そうね、美味しかったわよねぇー」

「あー、めちゃ美味しかったにゃー」


 食い気だ。


「長老、ツヴェルカーン王国って事はあそこも行くのか?」

「ワシはそこが1番怪しいと思っているな」

「あー、なるほど」


 リヒトが言う『あそこ』とは?

 ツヴェルカーン王国は前回の遺跡調査の時に、大規模な浄化装置が発見された。

 火山地帯にツヴェルカーン王国がある為、火山活動のエネルギーを調整する役割も担っていた大規模な物だ。

 そこが怪しいと長老は思っているのだろう。


「そこでなかったら、もう後は大森林しかない」

「大森林かよ。最初に確認すべきだったか?」

「まさか、そんな近場にとは思うのだが」


 確かにそうだ。エルヒューレ皇国は大森林の最奥にある。そんな近場から戻って来られなくなっているのだろうか?

 しかも、大森林だ。木がいっぱいだ。

 その中で精霊樹を探すのか?


「しゃーねー」

「ん? ハル、どうした?」

「おしゃかな、食べたかったじょ」


 やはり食い気だ。

 アンスティノス大公国を出た一行は物陰へと馬を進める。


「集まってくれ。転移するぞ」

「じーちゃんはしゅげーな」

「ハル、そうか?」

「ん、しゅげー。こんなに転移できねー」

「ハルはまだちびっ子だ。これからだ」

「しょうらな」


 確かに長老は1番のチートなのかも知れない。戦闘能力はリヒトの方が上だが、魔法となると長老の上を行くものはいない。

 先ず、魔力量が違う。流石、ハルの曾祖父だ。


「俺なんてこんな長距離の転移は未だに無理だ」

「そうですね、長老だけではないでしょうか?」

「りひと、しょぼいな」

「ショボいって言うな」


 アハハハと笑いながら長老は魔法杖を出した。


「よいか? 転移するぞ」


 そして、杖で全員が入る様に半円を描くと皆が白い光に包まれ、光が収まる頃には姿が消えていた。

 無事にツヴェルカーン王国の防御壁付近に転移してきた一行。

 ここに精霊女王がいるのか? ツヴェルカーン王国にいなければ、大森林を調査しなければならない。

 そんな一行を待っている人がいた。

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