第160話 未知のもの

 ハル曰く……


「りゅしかはたよりになりゅかりゃな」


 だ、そうだ。

 元々はリヒトの従者でフォローの人だ。

 その性格も影響しているのだろう。

 なら、執事見習いのイオスは何をしている?

 ミーレと一緒に、ハルのお尻フリフリを見てウケていた。

 ここは執事見習いとして、手腕を発揮するところではないのか? これも、性格が影響していそうだ。


「と、一連の事をしている訳です」

「ルシカ殿、どうしてこの様な事をされているのですか?」


 おや、既に名前を覚えられているらしい。

 そしてまたルシカが説明をした。

 さっきヒポポが精霊獣に何を聞いていたのかだ。


「精霊女王ですか……」

「はい、ハルが精霊王から直々に頼まれた事なのです」

「いやはや、何とも……」

にわかには信じ難い事なのですが、実際に会われたのですか? その……精霊王様に……」

「はい。エルヒューレ皇国の城でお目に掛かりました」

「なんと……!」


 瘴気の存在さえも、知られていなかったのだ。精霊王や精霊女王と言われても、別世界の事だと感じるだろう。

 だが、実際に存在するのだ。この世界を維持する為に、人知れず力を尽くしているのだ。

 ハルやエルフは、その手伝いをしているに過ぎない。

 目に見えないから、実際に存在するのかどうかも分からないから、だから信じない、信じられないではない。

 エルフは見えなくても、存在を信じて守ろうとしてきた種族なんだ。

 だからこそ、精霊達だけでなく精霊王も信頼を寄せている。この世界の神もだ。

 ハルの保護者にと、ハイエルフのリヒトが選ばれた様にだ。

 忘れてはならない。ハルの加護だ。

 創造神の加護、世界樹の愛し子、そしてハイエルフ族の愛児、ハイヒューマン族の愛児だ。


「もっしもっしかぁめよ、かぁめしゃぁんよぉー♪」


 また歌っている。両手を腰にやり、お尻をフリフリしながらだ。カエデやヒポポまで同じ様にフリフリしている。

 こうしていると無邪気な可愛いちびっ子だが、ハイスペックで鬼強いちびっ子なんだ。


「ハル、そろそろ行こうか」

「えー、じーちゃん。まら亀しゃんとあしょびたいじょ」

「アハハハ! キリがないだろう」

「しょんなことねー」

「ハル、昼飯だ」

「おー、りひと。わしゅりぇてたじょ」


 朝から城にやって来て、精霊獣を呼び出していた。そろそろお昼だろう。


「りゅしかの飯か?」

「いやいや、ハルくん。城で用意させよう。一緒に食べないか?」


 大公が気を遣っているぞ。


「おー、いいじょ」


 相変わらず、態度は一人前だ。


「またなー! 元気れいりゅんらじょ!」


 ハルが精霊獣達に手を振っている。

 貴族達は、始める前とは一転して穏やかな目で見ている。例の突っかかってきていた侯爵でさえもだ。

 毒気を抜かれた様に優しい目になっている。


「コハル、これなら良かろう」

「今のところはなのれす」


 長老は貴族達を見て、良しとした様だがコハルはまだ用心している。

 なかなか一筋縄ではいかないようだ。

 一行は城の中へと場所を移し、皆の前にはご馳走が並べられている。

 大公が言った様に、ハル達も一緒に昼食会だ。

 そこでも、矢継ぎ早に質問が飛び交っている。


「長老殿、いつもは杖を持ち歩いておられませんな?」

「エルフ族は皆持っているのです。大きさを変えているだけですな」

「なんと!?」

「リヒト殿達は見えておられるのですか?」

「俺達もぼんやりとしか見えなかったり、全く見えない者の方が多い。だが、今回はコハルの能力で見る事ができている。皆さんと同じですよ」

「なんと!?」

「アヴィー先生のお孫さんは素晴らしいですな」

「ふふふ、曾孫なのよ。ハルちゃんの能力はエルフ族の中でも飛び抜けているわ」

「なんと!?」


 質問攻めだ。ゆっくり昼食を食べられたものではない。


「こりぇ、うめーな」


 いや、ゆっくり食べている者がいた。ハルだ。

 モグモグとお口を動かして、マイペースに食べている。


「ハルちゃん、こっちのも美味しいで」

「どりぇりゃ?」

「これ、取り分けたろか?」

「ん、ほしいじょ」

「ハルちゃーん、あたしもー」

「シュシュは肉の塊もらったやん、て、もう食べたんか?」

「あんなの一口よぅ〜」


 ハルちゃんチームは相変わらずだ。カエデが世話を焼く立場になっている。

 ミーレやルシカはどうした?


「なるほど、耳が違うのですな。しかし、いやはやお美しい」

「エルフ族では普通です」

「ルシカ殿も料理をされるのですな?」

「はい、リヒト様やハルが喜んでくれますから」

「私も実は趣味程度なのですが、料理をするのです。よい気分転換になりますな」

「イオス殿は執事見習いなのですか!?」

「はい、今はハルに付いています」

「エルフ族の方にも執事がおられるのですな」

「リヒト様のお父上は、現皇帝陛下の弟君で、ガーディアンの総司令官の任に就いておられるのでお忙しいのです」

「なんと!? 皇族であられるのですか!? しかも、あのガーディアンの!?」


 ミーレやルシカ、イオスも貴族に質問攻めにされていた。

 と、まあ皆貴族達に捕まっていた。普段は交流できないエルフ族に興味津々なんだ。

 これが良い機会になれば良い。よい切っ掛けになればと、長老やアヴィー先生が話していたが。

 人は誰しも自分が知らない事には警戒をする。ヒューマン族にとっては、エルフ族とは自分達よりも遥かに能力の高い未知の種族だったのだ。

 アヴィー先生位しか、知らない。知られていない。そのアヴィー先生は、ヒューマン族のどんなに優秀な薬師でも比べものにならない程の薬を作る。いとも簡単にだ。

 アヴィー先生に、治せない病はないとまで噂されている人物だ。その上、いつの間にか大公から頼りにされる立場になっている。

 一体何がどうなっているのだ? と、ヒューマン族にとっては、想像ができないのだ。アヴィー先生はどんな人物なのか。

 そのアヴィー先生に代表されるエルフ族とは?

 それが、警戒をする一つの原因にもなっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る