第159話 いつも通り
貴族達は、驚きを通り越してしまったのか、声も出さず口を半開きにして目を大きく開き、凝視している。
そんな人達を置いてけぼりにして、コハルは淡々と実を植えていく。
アヴィー先生が貴族達に何も言わないので、結局ルシカが説明役になっている。
コハルが取り出したのが、精霊王から預かっている精霊樹の実でそれを植えているのだと。
精霊樹は、この世界の瘴気を浄化する役目もあるのだと。
そんなルシカの説明を聞きながら、信じられないといった表情の貴族達。最初に文句を言っていた侯爵までも、いつの間にか黙って大人しく見ている。
きっと言葉も出ないのだろう。ヒューマン族には想像も出来ない事が目の前で起こっているのだ。
「長老、お願いなのれす」
「よし、任せなさい」
長老がどこからか魔法杖を出した。いつもは持っていない杖だ。何度か長老に会っている大公でも、長老が杖を使うのは初めて見るのではないだろうか?
エンブレムには、グリーンゴールドに煌めく球体のついた長老の魔法杖。その杖の先を、地面にカツンと一つ小突いた。
そして魔法杖を掲げて長老は静かに詠唱した。
「ピュリフィケーション……ヒール」
精霊樹だけでなく、辺り一面にキラキラと光りながら白い光が降りていく。
「おぉーッ!」
「なんと素晴らしい……!」
思わず声が出てしまった様だ。
光が消えると、地面に吸い込まれていった精霊樹の実が、そこからポコンポコンと芽が出てグングンと伸びていき若木になり、見る見るうちに成木となった。元気にキラキラと光っている。
それだけではない。この辺りに生えていた木や花まで、見るからに艶々と元気になっている。
この辺り一体が、輝いて見えるんだ。
「な、な、なんと……!?」
大公も驚きを隠せない。
「ひぽ、呼び出してくりぇりゅか?」
「ぶも」
ヒポポが大きな体を揺らしながら、一歩前に出て一鳴きした。
「ぶもぉッ」
すると、たった今大きくなった精霊樹から、ワラワラと小さな亀さんの精霊獣が出て来た。そして、みんな揃ってハルへと向かって来る。
「アハハハ! ちっしぇーな!」
「元気そうだ」
「ハル、また集まって来ているぞ」
「りひと、いいんら。可愛いらろ?」
「アハハハ、いいのかよ」
ハルが精霊獣に向かって両手を出す。
「もっしもっしかぁめよ、かぁめしゃぁんよぉー♪」
お尻をフリフリしながら、思わず歌ってしまうハル。ハルちゃん、可愛いぞぅ。
「アハハハ! ハルちゃん、お尻フリフリしてるやん」
「かえれ、可愛いじょ」
「ハルちゃんも可愛いわよぅ〜」
カエデとシュシュがハルに近寄って行く。精霊獣がハルの頭や手の上、肩に我先にとハルに近寄って行く。
「アハハハ! ぶぶへッ」
「ハルちゃんまた前見えてへんやろ?」
「ハルちゃんのお顔にしがみ付いたらダメよー!」
シュシュが精霊獣に注意しているが、そんなの聞いちゃいない。
とにかく、ハルにくっつきたいのだろう。ハルは本当に好かれている。
「離れるなのれす! くっつき過ぎなのれす!」
とうとうコハルが、ハルの肩にのり一喝した。すると、オズオズと仕方なく精霊獣達が離れて行き、空中でフワフワと浮いている。
小さな亀さんの精霊獣。最初に出てきた精霊獣は甲羅がグリーンゴールドだった。
だが、出て来た亀さん達は色とりどりだ。ゴールドを元にピンクだったりブルーだったりイエローだったり。
綺麗な八角模様の甲羅がキラキラしている。その小さな亀さんを引き連れて、ハルちゃんがムッチムチのお尻をフリフリ。
「もっしもっしかぁめよ、かぁめしゃぁんよぉー♪」
張り切って歌っている。
「アハハハ! ハルちゃーん」
「ハルちゃん、可愛いぃ〜!」
「ハルは何をやっとるんだ。アハハハ」
長老達はいつも通りだ。和やかに
「ハルちゃんは、お歌が好きね」
「アヴィー先生、亀の歌は特にだ。風呂でもよく歌っているからな」
「うふふふ、可愛いわね」
「かえれ! 一緒にうたうじょ!」
「ええー!」
「いくじょ、しぇーのッ」
カエデまで巻き込んでいる。
「もっしもっしかぁめよ、かぁめしゃぁんよぉー♪」
「アハハハ! ハルちゃーん!」
歌うだけで良いのだよ。カエデまでお尻をフリフリする必要はない。尻尾まで、ユラユラと揺れている。
ちびっ子コンビは賑やかで微笑ましい。
貴族達を放って盛り上がっているが、良いのか?
「ハル、ヒポポに聞いてもらおうか」
「あ、じーちゃん。わしゅれてたじょ」
こらこら、本題を忘れてはいけない。
「ひぽ、聞いてくりぇ」
「ぶも」
おやおや、ヒポポまでお尻をフリフリしていたらしい。
そのヒポポが、精霊獣と話をしている。
大きなお顔を軽く上下に動かして、話を聞いているらしい。
「ぶもぶも」
「しょっかぁ」
「ハル、またか?」
「うん、じーちゃん。ちょっと前に来たって」
「なるほど、『ちょっと前』か」
「また数百年前なのかも知れないわね」
ハル達は、いつも通り進めているが。その側で、ルシカが終始説明をしている。解説と言った方が良いか?
今は何をしているのか。何故それが必要なのか。何を聞いていて、それはどうしてなのか。
アヴィー先生も誰も貴族達に説明しないので、仕方なくルシカがする事になってしまう。
こんな時、ルシカは毎回大変な役割になってしまう。
覚えておられるだろうか? 以前、少し面倒な伯爵令嬢を保護した時にも、ルシカが世話役になっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます