第157話 見てから

「まあ、見てみられると良いですぞ。我々エルフ族が何を守っているのか、何をしているのかを見て頂くのも良いかと思います」

「長老殿の仰る通りだ。私は昨日既に見せて頂いた。それはもう言葉には出来ない事だったのだ。皆も良い経験になる。考える切っ掛けにもなると私は思っておりますぞ」


 宰相がそこまで言うのなら……という雰囲気が場を包み、文句を言っていた貴族も黙るしかない状態になった。

 そして、大公に説明した様に、改めてコハルとシュシュを紹介する。

 最初に紹介した時は反応がなかったのに、少し落ち着いたからだろうか?

 それは反応が二分された。やはり、獣人族は紹介されると同時に片膝を突き敬意を示した。

 本当かどうかと言う事よりも、目の前にいるコハルとシュシュの存在自体が稀有なのだと思っている。獣人族にとっては、聖獣とはその様な存在なのだ。

 それを見ていたヒューマン族の貴族達も、何かを考えた様だ。

 その場にいた獣人族だけでなく、ヒューマン族も、これはきっととんでもない事が起こるのだと予感した。恐れを持った者、覚悟を決めた者、そして未だに自分の固執した考えから抜け出せない者。そんな者達がこれから起こる事を自分の目で見て、どう思うのか? 何を感じるのか?


「では、参りましょう」

「長老殿、城ではどの辺りにあるのですかな?」

「この奥だと思うのだ。裏手になるか?」

「なるほど、参りましょう」


 皆揃ってゾロゾロと移動する。人数にして20人いない程度か。

 この国の中枢を担う貴族ばかりだ。


「ハル、分かるか?」


 長老に抱っこされたハルが答える。


「じーちゃん、らから真っ白白なんら」

「方角は分かると言っていただろう?」

「ん、わかりゅじょ。この先ら」

「そうだな」

「ハルが移動すると、白い部分も変わってくるだろう?」

「しょっか?」

「そうだな。見てみなさい」

「よしッ」


 なにが「よしッ」なのか分からないが、ハルが長老に抱っこされたまま両手を胸にやり目を瞑る。

 いつの間にか、このポーズがハルのワールドマップを見る時のお決まりになっている。

 シュシュとアヴィー先生曰く。


「ハルちゃん、なんて可愛いの!」

「もう、あの手よ! あの手!」


 ……らしい。どっちがアヴィー先生で、どっちがシュシュのセリフなのか分からない。

 二人だけではなかった。抱っこしている長老まで、愛おしそうな目でハルを見ている。


「じーちゃん、しゅげーな。ろんろん真っ白白じゃなくなりゅじょ」

「ハルが移動しているからだ」

「しょうなんらな」


 今更だ。今まで、気付かなかったのだろうか。

 一気に場の雰囲気が変わる。ハルと長老のやり取りで場が和んだ。


「ハル君は見えるのかい?」


 直ぐ近くを歩いていた大公が声を掛けた。


「おりぇか? 見えりゅじょ」

「ハルはメインですぞ」

「そ、そうなのですか……!?」

「そうなのよ。私達は精霊を見る事が出来ないわ。でも、ハルは見えるのよ。意思疎通ができるの」

「精霊ですか。いやはや、私にはとても考えが追いつきません」

「ふふふ、これから起こる事を見れば、その思いも変わるわよ」

「そうだな。大公殿にはそうあって欲しいものだ」

「ハル君が中心になって行われるという事ですかな?」

「そうね、ハルがいないと何も出来ないわね。精霊王に直接依頼されたのはハルですもの。私達はオマケよ、オマケ。ふふふ」

「ああ、まったくだ」


 長老夫婦の言い様で、大公が顔に汗をかいている。エルフのちびっ子が、精霊王に選ばれたのだと言っているのだ。

 精霊王自体をこの国では知られていない。おとぎ話にもなっていない。

 大公だって本当の意味での理解はできないのだろう。それでも大公は、長老夫婦を信頼している。この夫婦の言う事を疑うという選択肢はないのだ。

 そうこうしている内に、城の裏手に出てきた。


「じーちゃん、あしょこら」

「そうだな」

「あら、こんな場所にあったのね」

「ハルの手はどうだ?」

「おー、わしゅれてたじょ。光ってりゅじょ」


 だから、忘れられると精霊王がイジケちゃうぞぅ。


「長老殿、何かあるのですかな?」

「目の前の方向に、精霊樹があるのですよ。ピカピカと光ってますな」

「せ、精霊樹ですか」

「そうよ。その精霊樹を探してこの国に来たの」


 一行が目指す先にたった1本の精霊樹が立っている。キラキラと光を放っている。城という立地だからかまだ元気はある方なのだろう。


「こはりゅ、そりょそりょら」

「ん~、やっぱするなのれすか?」


 どうやら、コハルは乗り気ではないらしい。


「コハル、まあ一度見せてみようではないか」

「分かったなのれす」


 精霊樹近くにやって来た。その場で長老が貴族達に話し掛ける。


「皆様は見えていないでしょうが、すぐそこに精霊樹が1本立っております。我々はその精霊樹を探して回復させる旅をしております。魔力量が多くない皆様には見る事ができなのですが、折角です。聖獣の力を借りて、我々がする事を全て見てもらおうと思います。今からコハルが皆様の側に行きます。決して、手を出さぬようにお願いしますぞ」


 長老がそう言うとコハルがフヨフヨと移動した。先ずは、大公からだ。

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