第155話 登城

 翌日、やっと城へと向かうらしい。宰相は朝早くから既に登城している。

 昨日、重要事項として要職に就いている貴族に通達が届けられた。

 エルフ族のアヴィー先生や長老が大切な作業をする。特別に立ち会う事を許されたので、心して出席する様にと。

 コハルはまだ全面的に賛成をしている訳ではないらしい。


「こはりゅ、いいきっかけになりゅじょ」

「考えるなのれす。見るなのれす」


 と、今朝も話していた。

 一行は、宰相の息子マルティノと一緒に城へと向かう。

 城では、大公と宰相が待ち構えていた。


「アヴィー先生、長老殿、此度のご配慮には感謝致します」

「あら、大公。そんなに恐縮しなくてもいいのよ」

「これ、アヴィー。言葉使い」

「長老、いいのよ。私はいつもこんな感じだもの」


 大公とアヴィー先生、どっちが偉いのか分かったもんじゃない。アヴィー先生の方が態度はデカイぞ。


「ハルくん、久しぶりだな」

「おー」


 ハルもアヴィー先生の血を継いでいた。誰よりも態度がデカイ。

 もう慣れっこなのだろうか、宰相が話を進める。


「昨日、要職に就いている者達に至急連絡を取りました。今日は全員集まっております。集まってはいるのですが……」

「分かっているわ、宰相。グダグダ言っている人達がいるのでしょう?」

「はあ、アヴィー先生の仰る通りで。全くお恥ずかしい」


 宰相は昨日、既に精霊樹を見ている。長老達が何をしていたのかを、その目で見ているんだ。

 

「あれを見ると、今までの常識を恥じるしかないのですが」

「そうかしら。ヒューマン族はヒューマン族なりに、色々考えてやって来たのでしょう? ただ、私達とは考えが違っていたのよ。それをほんの少し分かってもらおうってだけなのよ」


 アヴィー先生、意外にもしっかりと考えていた。

 普段のアヴィー先生を見ていると、どうもそうは思い難いものがあった。アヴィー先生は自由奔放だから。


「ハルちゃん、コハルちゃんに出て来てもらいましょうか」

「ん、こはりゅ」

「はいなのれす」


 ポポンと何もない空間からコハルが出て来た。

 大公が驚いたのは言うまでもない。目をカッと見開き、唇の両端を締め付けきつく結んでいる。

 理解できないのであろう。


「コハルちゃんと言うの。聖獣よ。大公は聖獣を知っているわよね」

「は、はい。以前お目に掛かりましたから。確かその白い猫に見える……」

「ええ、そうよ。シュシュも聖獣ね。シュシュ、元の大きさに戻ってもいいわよ」

「あら、そう? じゃ、遠慮なく」


 そう言うと、抱っこしていたミーレの腕の中からピョンと飛び降り、グググッと大きくなった。


「おお! 神々しい!」


 やはり、獣人にとってシュシュは特別なのかも知れない。反応が違う。コハルの方が先輩なのだが。


「あら、よく分かっているじゃないの」

「黙るなのれす。シュシュはまだピヨピヨなのれす」

「だから、コハル先輩。ピヨピヨは止めてって言ってるのにぃ」


 途端に尻尾を巻き付けるシュシュ。そのシュシュの頭の上に乗り、両手を腰にやり胸を張るコハル。


「閣下、同じ聖獣様でも格上なのだそうです」

「そうなのか?」

「あたちは神使なのれす」

「なんと……!?」


 それまで、ソファーに堂々と座っていた大公が、思わず立って片膝を突いた。


「お目に掛かれて光栄にございます」

「やめれ。こはりゅはおりぇのともらちら」

「んん?」

「ふふふ、コハルちゃんはハルのお友達なのよね」

「しょうら」

「大公、普通にしてちょうだいな」


 アヴィー先生に促されて座り直す大公。

 予め、宰相から何をするのかを知らせれていた様だ。大公は協定の加入にも協力的だ。加入しなければと考えている。

 この国だけでやっていける訳ではないのだ。輸入している物資もある。各国から駐在している者達だっている。

 それに後れを取っていると考えている。

 この世界で孤立する訳にはいかないのだ。

 たかが、ヒューマン族と獣人族の力など、他国に比べれば一握りで潰されてしまうと危機感も持っている。

 

「エルフ族はそんな事はしないわよ。面倒ですもの」


 アヴィー先生のこの一言も大きかったようだ。面倒だからしない。ならもしも、面倒だと思う以上の事があったら、簡単に侵略できると言う事ではないか。と思っている。


「大公、我々は平和的に解決したのだ。協定はその一歩なんだ。この国以外の各国が協定を結んでいる。この国がその各国を抑止できるだけの力を持っているのなら話は別だ。だが、そうではない」

「長老、分かっております。あの時のエルフ族の方々の力を目にしていれば痛感する事です」


 大公が言っているのは、この国に魔物が出現した時の事を言っている。

 あの時、城を巻き添えに自爆しようとしていたハイヒューマン族の最後の生き残りであるスヴェルト・ロヴェークの暴挙をエルフ族が止めた。

 ハルが自分の体を盾にして守ったんだ。

 そして、そのハルをリヒトが守り、城をエルフ族の最強の戦士達が守った。

 それを大公は目の前で見ていた。


「この国はハルくんやエルフ族の方々に、守ってもらったのだと思っております」

「ハハハ、そんな大層な事でもないが。だが、足並みを揃えて平和に尽力すると言う事も必要だ」

「はい、勿論です」

「そうね、だから今日の事は良い切っ掛けになればと思っているの」


 アヴィー先生や長老達も多くは望んでいない。

 ただ、考える切っ掛けに……いや、考えを変える切っ掛けになればと思っている。

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