第154話 夕食はハルの大好物

 精霊樹の為に訪れた宰相邸。

 精霊樹を植え、風呂まで入りのんびりとした時間を過ごしている一行。

 今は皆揃って夕食の時間だ。


「これは美味そうだ」

「りゅしかの飯はうめーんら」

「ハルの好きな兎ですよ」

「でっけーうしゃぎ?」

「はい。ヒュージラビットです」

「やっちゃ!」


 ハルちゃんの大好物、ヒュージラビットだ。このヒュージラビットの肉の為に、態々ドラゴシオン王国へ行こうかと言う程に好きだ。


「ルシカ殿、ヒュージラビットと言ったか?」

「はい、そうです」


 宰相の息子、マルティノ君が驚いている。ナイフとフォークを持っている手が止まっている。


「ち、父上、ヒュージラビットだそうです」

「あ、ああ。驚いた」


 そんな2人を他所に、ハルのお口はもうヒュージラビットのお肉でいっぱいだ。


「超うめー!」

「アハハハ。ハル、お口の周りにソースが付いてるぞ」

「じーちゃん、めちゃうめーじょ」

「ハルちゃんは、ヒュージラビットのお肉が好きだものね」

「らってばーちゃん、うまいじょ」

「ふふふ、そうね。とっても美味しいわ。ルシカ、今日はトマトソースじゃないのね?」

「はい。粒マスタードとハチミツとバターで作ったソースです。如何でしょう?」

「超うめー!」

「ハハハ。ハル、有難う」


 そう言いながら、ハルのほっぺを拭くのはルシカだ。

 驚いて固まっている、宰相親子を放っておいてはいけない。


「沢山ありますから、どうぞ食べて下さい」


 ルシカが声を掛ける。


「私の記憶では、ヒュージラビットとは大きくて強い魔物だったと思うのですが」

「ん? つえーか?」

「ハル、ヒュージラビットは強い部類に入るんだ」

「りひと、しょうなのか? けろ、ちゅどーんれいっぱちゅらったじょ」

「おう、楽勝だったな」


 一行がドラゴシオン王国に遺跡調査に行った時だ。出て来たヒュージラビットを皆で瞬殺だった。

 超美味い兎が出て来たと、ウホウホと狩っていたハルだ。

 エルフ族にとっては、全く相手にならない。大森林に出てくる大型の魔物の方が、ずっと強い。


「ハルくんも戦ったのか?」

「おー、ちゅどーんら」

「ちゅ?」


 マルティノ君、理解していない。


「ハルの必殺技なんだ。ドロップキックだな」

「まだちびっ子なのに、魔物と戦うのですか?」

「ワハハハ、ハルは確かにちびっ子だが、強いぞ」

「じーちゃんほりょじゃねー」


 お口に兎のお肉が入っているから、いつもより聞き取り難い。

 美味しそうにパクパクと食べているハル。


「ハル君、長老殿はやはりお強いのか?」

「ん、超ちゅえー。りひとはもっとちゅえー」


 カミカミだ。


「我々は想像もできません。このヒュージラビットだって実際には見た事もない」

「それだけこの国は恵まれているのよ。魔物がいない国なんですもの。エルヒューレなんて、魔物が闊歩する大森林のど真ん中ですもの」


 アヴィー先生の言う通りだ。この国しかしらないヒューマン族は、知識も経験も少な過ぎる。

 他国に駐在している大使もいない。

 他国の者は駐在しているのにだ。

 商人が出入りしなくなったら、どうするのだろう? たちどころに、食料に困るのではないか?

 そんな事も考えての、協定なんだ。


「りゅしか、りゅしか」

「はい、ハル。どうしました?」

「うしゃぎ、もうねーか?」

「おかわりですか?」

「うん、半分らけ食べよっかなぁ」

「ありますよ」

「やっちゃ!」


 ハルちゃん、お肉のおかわりらしい。

 パンを食べずにお肉ばかり食べている。


「ハルちゃん、パンも食べなさい」

「らってばーちゃん。パン食べたりゃ腹いっぱいになりゅじょ」

「お腹いっぱい食べなきゃでしょう?」

「ちげー。しょんらけ、うしゃぎが食えねー」

「アハハハ! ハル、どんだけ食うつもりなんだよ」

「りひと、いっぱい食いてーんら。けろ、しゅぐに腹いっぱいになりゅんら」


 ハルはまだちびっ子だから、それは仕方ない。それで、パンを食べずに兎肉を食べるという事らしいぞ。

 兎肉というだけで、こんなに楽しませてくれる。ハルは無邪気で可愛い。

 リヒトが保護した頃は、警戒心でピリピリしていたとは想像もできない。


「ハルちゃ〜ん、あたしもこのお肉大好きよ〜」

「シュシュはどんな肉でも好きだろう」

「リヒト、信じらんないわ。なんてデリカシーのない事を言うのかしら!」


 また一言多いリヒト。シュシュにまで叱られている。


「リヒトったら、言わなくていい事を言うのよ。もう少し考えなさい」


 アヴィー先生にまで叱られちゃったぞ。

 今日は平和な1日だった。

 明日は、いよいよこの国の中枢、城へ向かう。

 コハルはどんな判断をするのだろうか。


「美味しいなのれす」

「な、うめーな」


 コハルも一緒に兎肉を食べていた。

 ヒポポは亜空間の中らしい。1人可哀想ではないのか?


「ぶも」


 そのヒポポが顔だけ亜空間から出している。


「ひぽ、食うか?」

「ぶもぶも」

「ん。ちょっと待ってな」

 

 ほら、ヒポポも食べたいらしいよ。


「りゅしか、ひぽにうしゃぎにくやってほしいな」

「はい、分かりましたよ。ヒポポ、そっちで食べるのですか?」

「ぶもぶも」


 うんうん、と頷いている。出て来て食べるのではないらしい。

 ルシカが兎肉のステーキを乗せた皿をヒポポの前に出すと、パクリと咥えて亜空間に引っ込んで行った。

 

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