第153話 似た者夫婦

 ハルとリヒトが風呂に入っている頃、長老とアヴィー先生は宰相と話していた。

 明日、城に出向く。その城のどこに精霊樹が生えているのか。

 城に入った事があると言っても、長老やアヴィー先生はそう詳しくはない。

 長老のワールドマップを頼りに移動するしかないのだ。


「どの辺りにあるのかが問題です」

「長老、大体の場所は分かるのでしょう?」

「そうなのだが、なんせワシが詳しくないからな」

「あら、そうなの?」


 まるで、アヴィー先生は詳しいみたいだぞ。

 確かに、長老よりは詳しいだろう。協定の会議の為に何度も城に出向いている。長老はそうではない。


「でも、執務室には入った事があるのでしょう?」

「ああ、あるが。あの時は転移したからな、場所なんて詳しくは分からんな」

「まあ! 転移したの!? 長老ったら何をしているのよ」


 いやいや、アヴィー先生に言われたくはないと思うぞ。

 アヴィー先生の無鉄砲さの方がずっと目立っている。


「私はちゃんと公式に出向いているもの。いきなり転移で行った事なんてないわよ。当然じゃない」

「アハハハ。そうか」


 笑って誤魔化す長老。似たもの夫婦だ。どっちもどっちだ。


「精霊樹が何処にあるのか確定できないのですね」

「そうなんだ。まあ、中央ではない」

「なら大抵の場所は大丈夫だと思いますよ。中央には色々集まっておりますので」

「あら、大公の執務室も中央になかったかしら?」

「そうですね、概ね中央にあります。謁見室に近い場所にあるので」

「長老、中央に入っているじゃない」

「そうか?」

「そうよ。執務室なんて普通なら部外者は入らないわ。私だって入った事がないもの」

「ワシだけじゃなかったぞ。リヒトとルシカも一緒だ」


 いやいや、それは長老が有無を言わせず連れて転移したからだろう。

 

「まあ、大公閣下が許可されているのです。何とかなるでしょう」


 楽観的な宰相だった。城の中と言っても、精霊樹だ。建物の中にある訳はない。

 城のメインの中庭なのか、裏庭なのか。

 ドラゴシオン王国では城の裏側にあった。これまで精霊樹があった場所を考えてもそうそう目立つ場所ではないと思うのだが。


「それにしても、まだ夢心地です。あのような光景が見られるとは、生きていて良かったと思います」

「まあ、大袈裟だわ」

「いえ、アヴィー先生。本当なのですよ。我々は魔力量が少ない種族です。神使様のご配慮がなければ見る事など出来なかったのですから」

「エルフ族だって見える者は少ないわ」

「そうなのですか?」

「ええ。私だってコハルが見えるようにしてくれてなきゃ、ぼんやりとしか見えないわ」


 今回、皆が精霊樹や精霊獣を見る事が出来るのは、コハルの裏技のお陰だ。

 そのコハルが明日はどう判断するのか。このヒューマンには見せないという判断もするのだろうか?


「コハルは普段はそうでもないのだが、時々神使だと思い知らされる事をする」

「そうね。コハルちゃんは特別なんだって思うわ」

「あら、あたしだって特別なのよ」


 おや、大人しくしていた白い奴が口を挟んだ。

 ハルがいないので、アヴィー先生の足元にノベッと寝そべっている。

 ハルがいないと言う事は、コハルもいない。シュシュはピヨピヨなのれすと言われる心配がない。


「あたしだって聖獣なのよぅ」

「ふふふ、そうね」

「そのシュシュはどう思うのだ?」

「え? 長老、何をかしら?」


 こらこら、聞いていなかったのか?

 ヒューマン族の貴族達に、精霊樹を見せるかどうかだ。


「あたしは見せるのもいいと思うわよ」

「シュシュ、そうか」

「ええ。自分達が一番だと思っている意識を変えるのには、良い切っ掛けだと思うわ」

「なるほどな」

「聖獣様、そう思われますか?」

「ええ。実際にあなた達だって見ていて思ったでしょう? こんな世界は知らなかったと。エルフ族の能力には敵わないと思わなかったかしら?」

「それはもう、痛感しました」

「でしょう? エルフ族の能力は計り知れないわ。あたしだって敵わないもの」


 シュシュが珍しく控えめな事を言っている。いつもと違うぞ。

 そういうシュシュの能力だって、ヒューマン族には太刀打ちできない。いくらコハルにピヨピヨだと言われていても聖獣だ。


「それよりも、ハルちゃんはまだかしらぁ?」

「シュシュも一緒に入れば良かったじゃない」

「あら、あたしはいいのよぅ」

「ワハハハ、シュシュは風呂が嫌いだな」

「長老、嫌いじゃないのよ。イオスとルシカの洗い方が嫌なの!」


 あの2人は容赦なく湯をぶっ掛けるからだ。きっと面白がってやっていると思うぞ。

 そんな話をしていると、ハル達がやって来た。

 3人共、ホコホコだ。


「ハルちゃぁ~ん!」

「しゅしゅ、おまたしぇらな」


 リヒトがアルセーニ君を膝に乗せている。もう、慣れたものだ。アルセーニ君も、ご機嫌だ。


「あぶ」

「ありゅ、気持ちよかったな」

「あう」

「しょっか、また一緒に入りょうな」


 ハルが小さな手で、アルセーニ君の髪を撫でる。

 そのハルの前髪をリヒトが撫で上げる。


「ハル、前髪長いな。ちょっと切るか?」

「いいんら。みーりぇにあんれもりゃうかりゃ」

「俺が結んでやるよ」

「いい。みーりぇにやってもりゃう」


 そりゃそうだ。リヒトが結ぶと前髪をピョコンと一つに結ぶ。それは流石に嫌なのだろう。


「ハル、出ましたか?」


 ルシカがやって来た。


「おう」

「では、夕食にしましょう」

「りゅしかがちゅくったのか?」

「はい、少しですけどね」

「やっちゃ。じーちゃん、ばーちゃん飯ら」

「はいはい。ハルちゃんったら」


 ルシカの飯は外せねー。いつもそう言っている。

 ハルはどんな豪華な料理より、ルシカの作った料理の方が好きなんだ。

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